平和を願う世界中の若者が作った映像を募集して、ファイナリスト作品を上映する国際平和映像祭。2018年のキックオフとなるイベントが東京・市ヶ谷で開かれた。今回上映されたのは、2017年のファイナリスト作品である「春と夏の間に、夜と朝の間に。」(監督:小林令奈)、「僕たちは死ぬ日まで生きている」(監督:七田千紗)、「平和 Peace」(監督:斎木宏共)、2016年のファイナリスト作品「Light up Rohingya」(監督:久保田徹)の4つ。主催の一般社団法人国際平和映像祭の関根健次代表理事は「映像祭を発足させた時(2011年)から、とにかくどうしたら平和が実現するのかを考えてきた。紛争が依然として起こる中、私たちに何ができるのかをまずは知ってもらい、映像をきっかけに参加者と世界がつながってほしい」と冒頭あいさつで語った。2018年は7月21日まで、平和をテーマにした5分間の映像を募集中。
■慰安婦像を守る韓国の少女らと語り合う――小林令奈さん
韓国で慰安婦問題に立ち向かい、座り込み抗議をする少女らを追った「春と夏の間に、夜と朝の間に。」は2017年のグランプリ受賞作品だ。慰安婦像を守り続けようとする韓国の少女らと監督の小林令奈さん(慶大生)が寝食をともにし、一晩中語り合った記録だ。
ソウルで慰安婦像の真横にテントをたてて座り込みをする少女たちを訪れた小林さんは、日韓の民族の違いや、少女らが慰安婦像に込めた思いを彼女たちと語りあった。国対国の極端な対立ばかりが強調される歴史問題だが、小林さんは、日韓の若者が相手国との葛藤を抱きながらも心を通わせる瞬間を映そうとした。
「テントにいる女の子たちは韓国としての信念があって、私も日本としての信念がある。日本と韓国の主張や考え方の違いは大きいけれど、一人の人間同士が接したとき、そうした差異はすごく曖昧になると思う」と語る。小林さんは、春と夏の間、夜と朝の間に、韓国人と日本人が抱える感情を語り合ったことから、この題名を選んだ。
■動物にとっての「平和」を考える――七田千紗さん
17年ファイナリストの一人、七田千紗さんは1999年生まれだ。七田さんは栃木の山奥で自給自足の生活を目指す両親のもとで育った。山奥で暮らし、さまざまな生き物の生死を見る中で制作した作品が「僕たちは死ぬ日まで生きている」。
映像の序盤で七田さんは「どうして平和でないといけないの?」という問いを投げかける。平和という言葉は人間を対象に語られることが多い。七田さんは、その裏で動物の生が軽んじられて、大量の生き物が殺されていることに疑問をもった。
「死ぬのが怖いから、人は平和を叫ぶのではないだろうか。私が暮らす場所は獣害指定されたサルやシカを役所に持っていくとお金がもらえる。人間と比べて、動物の死の不条理さを感じた。映像制作をする中で、平和を叫ぶこと、死ぬこと、生きることは密接に関係していることだと気づいた」(七田さん)
■悲惨な映像で賞をとることに違和感――久保田徹さん
2016年ファイナリストの久保田徹さん(慶大生)は2016年、なんとかしなきゃ!プロジェクト賞を受賞した。その授賞式のために国際平和映像祭2016に登壇したことは、久保田さんがドキュメンタリーを作る意味を改めて考えるきっかけとなった。
久保田さんは作品の「Light up Rohingya」で、ミャンマー政府から迫害を受けるロヒンギャ難民の居住地を取材した。久保田さんは、20万人のロヒンギャ難民が強制移住してきたキャンプで、電気水道がないまま難民らがひしめき合って生活している場を目撃した。
久保田さんは「当時は受賞したことが一つの大きな壁だった」と話す。「自分はジャーナリストとして事実を伝えることが重要だと思っていた。だから悲惨な状況の人々がスクープとしてとらえられているうえで、自分が賞をとっていることに違和感を覚えた」と言う。
国際平和映像祭の高橋克己理事は、この映像祭の意義について「映像は道具ではない。映像を制作する作業そのものが平和につながる」と話した。久保田さんもこのイベントでのスピーチ後半で「ドキュメンタリー作品の受賞は、事実そのものに対してではなく、表現に対する賞だ。2016年の受賞以降それに気づいた。高橋さんが言っていたように、平和のために表現をするのではなく、自分の表現行為そのものが世界を良くしていくのが理想だ」と語る。
■国際平和映像祭は9月22日
国際平和映像祭は2011年に始まった。2018年で8度目。世界中の若者から、「平和」をテーマに5分間の映像作品を募集する。ファイナリストの作品は、世界中の紛争を一時的にでも停止して、平和について考えようと国連が定めた「国際平和デー」(9月21日)に上映する。
2018年の国際平和映像祭の開催日は、9月21日が平日であるため、22日の土曜日。作品エントリーは現在受け付け中で、7月半ばまで募集する。テーマは「平和」。戦争や災害に対する平和はもちろん、家族や優しさなど日常の中で感じられる平和も表現の対象だ。
グランプリには賞金10万円が贈られる。学生部門の受賞者は、11月に開催されるニューヨークでの国連機関が主催する映像祭PLURAL+アワードセレモニーに招待される。
〇国際平和映像祭2018
・日時:2018年9月22日(土)15:00-20:00ごろ予定
・場所:横浜市内
・主催:一般社団法人 国際平和映像祭
・作品エントリー:平和をテーマにした5分間の映像作品。どなたでも応募可能。エントリー期間は2018年3月21日~7月21日。
・国際平和映像祭UFPFF 公式ホームページ http://www.ufpff.com/