環境NGO「FoE Japan」はこのほど、「環境と民主主義~環境・人権・暮らしを守るためにたたかう世界の人々」と題したシンポジウムを東京・中野で開催した。このシンポジウムで、同団体のインターンで立教大学4年の高田大輔さんは、マレーシア・サラワク州で違法に伐採されている熱帯林の実態を報告。東京オリンピックの関連施設で使われている可能性が高いと警鐘を鳴らした。この熱帯林のなかでは先住民イバン族が暮らす。
■イバン族の暮らしが崩壊
「私たち(イバン)の森にある日突然、マレーシアの伐採企業がやってきて、熱帯林を勝手に切り始めた」。これは、高田さんが2017年9月にサラワク州カピット村を調査したときに、村長から聞いた言葉だ。
イバンの人たちは、カピット村で「ロングハウス」と呼ばれる長屋で暮らす。先住民が生活に必要な森を保護するためにサラワク州政府は、企業の伐採ライセンスを管理するというのが建前だ。ところが「企業は約束を守らない。ロングハウスの近くまで皆伐され、油ヤシのプランテーションが造成された」(カピット村の村長)。近隣の村でも状況は同じだという。
ロングハウスのそばを流れる川ではかつて魚が獲れ、水も飲めた。だが油ヤシを栽培することで大量にまかれる農薬や肥料が川に流れ込むようになった。「川の水が白や茶色に濁り、生活用水に使えなくなった。現在はロングハウスの外に飲み水用の大きなタンクが置かれる」(高田さん)
なくなったのは魚と水だけではない。「ドリアンの木も切られてしまった。私たちは人生を失った」とカピット村の村長は嘆く。食べ物を得るためにイバンの人たちは果物や野菜の畑を作り始めた。しかし森がなくなって飢えたサルに荒らされてしまったという。
高田さんは「現金がより必要になったイバンの若者たちは、町へ出稼ぎに行くようになった。ロングハウスに残されたのは老人ばかりだ」と説明する。伝統的に森とともに暮らしてきたイバン族の生活基盤は壊されてしまった。
■わいろを払って違法伐採
森林破壊が進む要因のひとつは、企業とサラワク州政府による深刻な癒着だ。マレーシア憲法は、“先住民が暮らす土地”は彼らの権利として守られると定める。マレーシア政府はライセンス制度を管理し、許されるエリアでだけ、サラワク州政府は企業に伐採ライセンスを発行できるとしている。しかし企業は許可エリアの森を切り尽くすと、先住民が暮らす森にまで侵食し出した。
「伐採企業は州政府に袖の下を払っている。だから違法伐採を見逃している」(高田さん)。伐採の合法性をめぐってサラワク州ではイバンの人たちが伐採企業などを相手取り、これまでにおよそ300件の民事訴訟を起こしているという。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、東京オリンピックで使われる合板の原料の7割は原則、森林管理協議会(FSC)をはじめPEFC、SGECといった認証を受けたものでなければいけないと定める。
サラワク州からの合板については、そもそも認証自体が不確かで、残り3割も合法かはグレーで違法である可能性が高い。
■森林破壊の片棒を日本が担ぐ
もうひとつの要因は、輸入する側の違法伐採に対する認識の低さにある。建設中の東京オリンピック新国立競技場で、違法伐採で悪評の高いマレーシアのシンヤン社製の合板が見つかった。選手村でも、認証印のない同社の合板が確認された。
オリンピック関連施設では「持続可能性に配慮した木材の調達基準」に沿って資材を調達するというルールがある。FoE Japanが、工事を取り仕切る東京都都市整備局に問い合わせたところ「選手村は、大会後は民間住宅になる建物として民間事業者が建設する。木材の調達基準の対象外。ただし、今後調達する合板は認証材にする」との回答書が送られてきた。FoE Japanは、オリンピック関連施設の監視を続け、認証のない木材を「買わない・使わない」よう東京都に働きかける予定だ。
日本の住宅はこの30年、サラワク州の熱帯材に依存してきた。同州が輸出する合板の半分以上が日本向けだ。日本が輸入した合板のほとんどは、住宅の基礎工事で使うコンクリート型枠やフローリング基材に使われる。コンクリート型枠に限ると9割がサラワク州からのものだ。
日本では2017年5月、木材を扱う企業に対して合法木材の使用を促す「クリーンウッド法」が施行された。しかし違反しても罰則規定はないため、効果は期待できそうにない。対照的に欧米やオーストラリアでは2000年以降、違法木材の輸入を禁じる法律が相次いで成立。違反した輸入業者には営業停止などの罰則を科すことができる。