「東京オリンピックで金メダルをとりたい」。こう目を輝かすのは、男子レスリング(グレコローマンスタイル)63キログラム級のインド代表選手、ビクラム・クラデさん(23歳)だ。インドの農家に生まれ、経済的に貧しかった彼を国際大会で活躍できるようにサポートしてきたのは、同国西部の街プネーに拠点を置くアスリートマネジメントNGOの「ラクシャ」だ。ラクシャは、支援する7人のアスリートを2016年のリオデジャネイロ大会に出場させた実績をもつ。
■ラクシャのおかげで英連邦で準優勝!
ビクラムさんは、プネーから250キロメートル離れた小さな町コルハプアーの出身。貧しい農家に生まれた。おじの影響で幼いころにレスリングを始めた。高校生だった2012年に、プネーやムンバイを擁するマハラーシュトラ州のジュニア大会で優勝。高校を卒業した後にレスリングを続けられるかどうか不安だったビクラムさんに支援の手を差し伸べたのがラクシャだった。
ビクラムさんはプネーに移住。インド有数のレスリングコーチであるカカ・パワーさんの指導を受け始めた。また栄養士のアドバイスももらえるようになり、食生活を改善。無理なく減量し、良いコンディションで試合に臨めるようになった。ビクラムさんはそのおかげで、2016年にはインド国内のシニア大会で優勝。シンガポールで同年開かれた英連邦大会でも準優勝を飾った。
「ラクシャのサポートがなければレスリングを続けられなかった。もっと練習して東京オリンピックで金メダルを取りたい」とビクラムさんは力強く語る。
■アスリートへのサポートが貧困解消!?
ラクシャは、才能があっても、貧困やジェンダー(女性)の壁ゆえに競技を継続できないアスリートを見つけ出し、彼らが国際大会で活躍できるよう支援する。ラクシャが目指すのは、アスリートがスポーツで単なる成功を収めるだけではなく、彼らの活躍が「貧困」や「ジェンダー差別」といった社会問題の解決にも寄与すること。こうした目的から、ラクシャがサポートする選手の半分以上は女性アスリートだ。
活動の資金は、スポンサー契約を結ぶさまざまな企業・団体から得る。167カ国に32のテレビチャンネルをもつソニー・ピクチャーズ・ネットワークスといった大手企業から、シャンティクマージ・フィロディア記念基金といった社会問題に取り組む地元財団などが名を連ねる。ラクシャが2017年に集めた資金は約2000万ルピー(約3200万円)にも上る。
ラクシャはその資金をもとに、スカウトを使ってインド全土の地方大会を視察し、経済的にハンディを抱えるが才能のあるアスリートを見つける。アスリートと契約した後は、無料で専属コーチのほか、理学療法士、栄養士、メンタルトレーナーといったサポートスタッフをつける。競技に必要な備品や遠征費、生活費も支給するという。
こうした取り組みが功を奏し、ラクシャは2012年のロンドンオリンピックに5人、2016年のリオオリンピックに7人のアスリートを出場させた。
■インドの総メダル数はわずか28個
世界で2番目に多い人口13億人を誇るインドだが、オリンピックの成績は悲惨だ。インドオリンピック委員会によると、夏季の過去24大会で獲得したメダルはたったの28個(金9、銀7、銅12)。このメダル数は米国の元水泳選手マイケル・フェルプス氏が生涯獲得したオリンピックのメダル数と同じだ。リオオリンピックでインドが獲得したメダル数は2つのみ。人口100万人あたりのメダル数をみると、インドは、メダル獲得国の中で断トツの最下位だ。
インドのスポーツはなぜ弱いのか。その理由に、貧困や女性差別といった社会問題がある。BBCニュースの中で冬季オリンピックのリュージュに出場したシバ・ケシャバン氏は「お金がなく、練習もできず、試合にも参加できない。キャリアを諦めざるをえなかった」と語っている。女性を下に見る傾向が根強く残るインドではまた、女性がスポーツをする機会は限られているのも実情。オリンピックにこれまでに参加したインド人女性選手の割合は全体の12%にとどまる。