「東ティモールではコーヒー以外に輸出できるものがない」。こう語るのは、国際協力NGOパルシック(東京都千代田区)の伊藤淳子・東ティモール事務所代表だ。東ティモールは、天然資源を除く輸出額の9 割をコーヒーに頼る。ところが収穫量が少ないのがネック。この現状を打破したいパルシックは、東ティモールが2002年に独立して以降、フェアトレードの推進や組合づくりでコーヒーの生産性と品質を上げる足がかりをつくってきた。
■アジア一若い国のコーヒーは高樹齢
東ティモールの農民の3人に1人の主な収益源はコーヒーといわれる。ところが同国のコーヒー畑1ヘクタール当たりの収穫量は、東南アジアのコーヒー生産国の平均値のわずか5分の1だ。
伊藤氏によると、収穫量が少ない理由のひとつが、コーヒーの木の多くが樹齢30年以上であること。コーヒーの収穫量は通常、樹齢10~15年でピークを迎える。それ以降は年々減っていく。東ティモールのコーヒー畑ではもはや生産アップは望めないというのが実情だ。
収穫量が少ないもうひとつの理由は、「東ティモールでは小さなコーヒー農家が多い」(伊藤氏)こと。小さなコーヒー農家が増えたのは、ポルトガルからの独立を宣言した東ティモールへ、インドネシア軍が侵攻した1975年以降だ。ポルトガルの植民地時代はプランテーションがほとんどだった。ところが東ティモール政府は、コーヒーの木や畑を手入れする技術的なサポートを積極的にしなかったという。
■組合を自立させるカギが「フェアトレード」
パルシックは、東ティモールの独立後、同国の経済的な自立に換金作物であるコーヒー産業の発展は欠かせないと考え、活動してきた。フェアトレードを推進し、日本市場へコーヒーを輸出してきた。
伊藤氏によると、コーヒー農家は、フェアトレードでもっと良い生活が実現できると思っていたという。だが実際は、コーヒー生産者組合員1人当たりのコーヒーからの年間収入は、2002年の約407ドル(約4万4800円)から2016年は約479ドル(約5万2700円)へと、14年間で18%しか増えなかった。
パルシックの活動の柱である「組合づくり」は成果を挙げた。アイナロ県マウベシ郡のコーヒー農家の協同組合「コカマウ」の組合員数は、2002年の34人から2018年は575人へと17倍に増えた。
組合員数が増えた理由は、パルシックのコーヒー買取価格が高いことだ。パルシックは、パーチメント(乾いたコーヒーの皮)のついた豆を1キログラム当たり40セント(約45円)上乗せして買い取る。さらに組合の運営費として、買取価格に1キログラム当たり20セント(約22円)を上乗せするという。合計すると、市場価格より1キログラム60セント(約67円)高い。
「ソーシャル・プレミアム」の効果もある。これは、コーヒー豆の買い手から組合へ買取価格の一部が戻ってくる仕組みだ。コーヒーの取引でパルシックと提携する企業は、コーヒー豆の購入量1キログラム当たり44セント(約50円)を組合へ還元する。組合は、その資金で簡易な水道設備や倉庫をつくることができた。
組合運営費としての資金が得られるフェアトレード効果について、伊藤氏は「コーヒー農家ら自身で使い道を決められるお金がコーヒーから入ってくる。個人として使えなくても、組合へ入ってくることで地域に貢献できるということが、コーヒー農家にとってひとつのやる気になっている」と話す。
■やる気アップは「価格だけじゃない」
東ティモールのコーヒー農家、輸出業者、カフェが集まって2016年10月、「東ティモールコーヒー協会」を発足させた。目的は、古いコーヒーの木を植え替えて収量を安定させ、高品質のコーヒーを生産することだ。
会員数は42団体・個人。パルシックと活動をともにするコカマウも協会の会員だ。伊藤氏は役員を務める。
コーヒー協会は今後、東ティモール農水省と協力し、全国規模でコーヒーの木の植え替えをペースアップさせていく。現在の植え替えペースでは、すべてのコーヒー畑が再生されるまでに40〜60年かかるためだ。
コーヒーの品質向上では2016年から年に1度、コーヒーの品評会「フェスティバル・カフェ・ティモール(Festival Kafe Timor)」をコーヒー協会は開く。このフェスティバルには、スペシャリティコーヒーの外国人専門家や若い東ティモール人を審査員にし、東ティモール中のコーヒーを評価する。この評価をもとに、どんな改善が必要か、東ティモールのコーヒーらしさとは何かを考え、品質改善のモチベーションアップにつながっている。