アフリカ南東部のモザンビークの小農民らが、同国北部に広がる熱帯サバンナ地帯を大豆畑に変貌させる、日本の政府開発援助(ODA)を使った一大プロジェクト「プロサバンナ」に猛反対している。11月に都内で開かれたイベントに登壇したNGO日本国際ボランティアセンター(JVC)南アフリカ担当の渡辺直子さんは「モザンビークの食料の8割を作るのは小農民だ。プロサバンナは彼らの土地を奪い、日本へ輸出する大豆を育てようとしている」と警鐘を鳴らした。
1日4食の生活が飢えるように
プロサバンナで開発対象となるのは、日本の耕作面積の約2倍に当たる1100万ヘクタールの熱帯サバンナ地帯。アフリカ最大の農地に変えようとするプロジェクトで、日本とブラジル両政府は2009年、「三角協力」(先進国が、比較的進んだ途上国と共同で、他の途上国を支援すること)でモザンビーク政府を援助することに合意した。東アジア原産の大豆を作り、日本に輸出することで、貧困率(1日1.9ドル以下で過ごす人の割合)が62.9%(世界銀行2014年調べ)であるモザンビークの経済発展を促すことが狙いだ。地域の農民・農業生産者ら400万人に利益をもたらす、と3カ国の政府はうたう。
モザンビークの小農民らがプロサバンナに反対する最大の理由は、話し合いもなく一方的に農地を奪われているからだ。外資系のアグリ企業は実際、農民の畑に突然ブルドーザーで入って農民の土地を耕し始めた。小農民らの抗議に対して、企業の責任者は「農民の畑に断りなく入ったのは事実だ。でもブルドーザーが入ったら、農民は勝手に逃げていった。土地を収奪したわけではない」と話した、と渡辺さんは言う。
熱帯サバンナ地帯の小農民らは「現金を持たない生活をしているが、自給自足できている」と主張する。JVCの調査でも、小規模で持続的な農業がモザンビークの国内総生産(GDP)の3割、国内の食料の8割を生み出すことが分かった。「肥料は使わず、土地が疲れたら休ませる。天候に左右されないよう、さまざまなものを組み合わせて作ってきた。先祖から引き継いだ土地を昔からのやり方で耕す。不作の年は、作物が育っている農家を手伝う。それで食べていける」(小農民ら)
「モザンビークで起きているのは、『幸福のための発展』ではなく、『悲しみの開発』だ」(ナンプーラ州農民連合のコスタ・エステバン代表)。JVCの調査によると、土地を奪われた農民の中には、1日4回食べられていたのに、今は深刻な飢えに苦しむようになった者もいる。大学へ進学できる可能性すらあった子どもたちは学校に通えなくなり、盗みを働くようになったという。
小農民らがとりわけ心を痛めているのは、昔は仲間だったコミュニティが分断してしまったことだ。プロサバンナに協力的かどうかで日本政府は住民をグループ分けする。プロサバンナに反対する農民を守ってくれる組織はない。殺される危険まであるという。