「(中国・新疆ウイグル自治区にある)収容所内では(ウイグル人ら)みんなが立って、国家(中国政府)、習近平、共産党に『感謝の言葉』を言わないと、食事にすらありつけなかった」。アムネスティ・インターナショナル日本が都内で開いた講演会「ウイグル強制収容所から奇跡の生還~オムルベク・アリさんが語る~」で、ウイグル人のオムルベクさんはこう声を荒らげた。収容所の看守に歯向かうと、暗い部屋で24時間以上座らせ続けられるなどの拷問が待っているという。推定100万人のウイグル人が現在、中国政府に収容され、弾圧されている。
■手足をつながれ自己批判
オムルベクさんがいた収容所では、午前3時半に起床し、布団を四角形に畳むことから1日が始まる。その後、共産党の革命歌の練習、政策について学習し、6時ごろに国旗掲揚。これらが終わってようやく朝食となる。食事はおかゆ1杯。8時から夕方までは国語(中国語)教育や職業訓練だ。
ウイグル人に生まれてきたことは罪だ――。夕方からは、自らの存在を否定するよう、中国政府から強要される。「私たちはウイグル人で悪かった」といった言葉を夜中の12時まで繰り返すのだ。こうした“教育”は1日中、手足が鎖につながれたままで、しかも50人近くがいる1部屋で行われる。
収容所内では信仰の自由もなかった。大半がイスラム教徒のウイグル人は豚肉を食べることを強制された、とオムルベクさんは語る。
また正体不明の薬が配られ、飲むと「ひどい下痢や意識を失うこともあった」(オムルベクさん)。収容所内に病院はない。度重なる拷問のせいで腎臓にダメージを受け、血尿が出るウイグル人もいたが、まともな治療は受けられなかった。
■「立派なジェノサイドだ」
オムルベクさんによると、共産党の目的は、新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)で暮らすウイグル人をターゲットに民族浄化し、土地を略奪すること。かつてのシルクロードを含むエリアを経済圏とする構想「一帯一路」の政策を進めるため、地域の有力者や知識人を弾圧し、新疆ウイグル自治区の土地を思うままにしようとしていると語った。
オムルベクさんの講演会で並んで登壇した明治大学の水谷尚子講師は「収容されたウイグル人は共産党の言いなりになるか、拷問死しか選択肢はない。この状況は立派なジェノサイド(虐殺)だ」と警鐘を鳴らす。
■いったん呼び出されたら死
オムルベクさんは実はカザフスタン国籍をもつ。ところが、新疆ウイグル地区にある両親の自宅に里帰りしたところ、武装警察5人が翌日、家にやってきて、オムルベクさんの手足を縛り、連れていった。オムルベクさんは当時、カザフスタンで旅行会社の副社長を務めるなど、“有力者”だった。これが中国政府に目を付けられた要因だ。
その後4日間に及ぶ尋問、拷問を受け、国家の独立を図ったテロリストであるとの自供を強制されたという。オムルベクさんは、弁護士、駐中国カザフスタン大使館、家族へ連絡させてくれと主張したが、収容所を出るまでの8カ月、要望は通らなかった。
駐中国カザフスタン大使館や国連がメディアへ強く働きかけたこともあって、オムルベクさんは解放された。しかし収容されたほとんどの人は帰ってこない。オムルベクさんの父は収容所で死んだ。オムルベクさんの親族12人はいまも収容されたまま。安否は不明だ。「収容所では毎週、1部屋から3~5人が呼び出されたまま帰ってこなかった。どうなったかは分からない」とオムルベクさんは話す。
オムルベクさんの信条は「どんなに強い国家でも、弾圧で統治しているとしたら、いつかは正義で倒される」。トルコで現在暮らすオムルベクさんは、中国政府の人権侵害を国際社会に訴え続ける。ウイグル人に対する虐殺が発覚することを恐れる中国政府はいまも、オムルベクさんを脅迫したり、尾行したりしているという。