東アフリカにある人口わずか1000万人の国ブルンジ。この国の田舎で協同組合を立ち上げ、農民の自立を支援する日本人女性がいる。京都に拠点を置く国際協力NGOテラ・ルネッサンスのブルンジ事務所で働く古岡繭さんだ。ユニークなのは、組合の入会費を、はちみつ作りなどのビジネスの資金にしていること。「組合員は一歩ずつ前に進んでいる。その小さな成長を見るのが嬉しい」と古岡さんは話す。
■乾季にも収入を!
テラ・ルネッサンスの支援地は、ブルンジのムランビア県キガンダ郡。1993年から続く内戦の被害を受けた人たちが多く住む地区だ。同団体はここで2015年に、農民らを対象に「レジリエンス向上プロジェクト」を開始した。主に雨季しか収入を得られない農業とは別に、通年で収入が入るビジネスを起こす。目的は、持続的で多様な収入源を確保することで、コミュニティーを経済的に自立させることだ。
このプロジェクトで立ち上がったビジネスは、はちみつ作りのほか、レンガや瓦の生産、ブルンジの主食であるメイズやキャッサバを粉末にする食品加工の3つ。テラ・ルネッサンスは農民らに対して、はちみつやレンガの作り方を教えたり、はちみつ作りに必要な加工機やメイズの粉末機を購入したり、熱効率の良い窯を設置したりした。はちみつは「アマホロハニー」のブランドとして売り出し、人気も上々だ。
農民らの経済的な自立の下地は整いつつある。テラ・ルネッサンスが次に取り組んだのがそれぞれのビジネスの協同組合の設立だ。レジリエンス向上プロジェクトを2018年から担当する古岡さんの仕事は、協同組合の設立と運営をサポートし、農民の収入の安定させることだ。
■入会金は年収の7分の1
協同組合は組合員から「シェア」と呼ばれる入会金を集める。このシェア基金と事業の売り上げの一部を使ってビジネスを回す。ハチの巣箱やはちみつのパッケージ材料の購入費、機材の燃料費や修理代は主に協同組合自身でまかなう。
協同組合は事業ごとに作った。はちみつを作る養蜂組合とレンガや瓦を作る窯業組合のシェアは、それぞれ2万5000ブルンジフラン(1300円)、11万ブルンジフラン(4300円)。国民1人当たりの国内総生産(GNI)が290ドル(約3万2000円、世界銀行2017年)と世界最下位のブルンジの農民にとっては大金だ。
だが協同組合の趣旨に賛同した農民らは、2015年に始まった事業で得たお金を少しずつ貯め、2018年に組合を設立した際にシェアを払った。現在は養蜂組合に48人、窯業組合に19人が所属する。
「受け身の援助では自立できない。農民自ら資金も労働力も提供し、自分たちのビジネスであることを自覚して、主体的に進めることが大切」と古岡さんは語る。
■お金をくすねる組合員も?
協同組合を運営するうえで、古岡さんの頭を悩ませるのはトラブルが絶えないことだ。組合を設立した2018年4月には、リーダーがシェアをくすねたと疑いをかけられたり、一部の組合員がお金の分配のときにだけミーティングに参加したりといった問題が起きた。ミーティングで話し合うことなく、脱穀機が50キロメートル離れた首都ブジュンブラに置かれそうになり、組合が分裂しかけたこともあった。
そこで古岡さんは組合員と相談しながら組合の内規を定めた。半年に1回のミーティングに出席するといった組合員としての責任から、組合の意思決定は組合員の4分の3以上の賛成を必要とするなどのガバナンスまで明文化した。収入は、組合活動の出席率に応じて分けることにした。
国際開発の現場では、途上国側が援助を受けることに慣れてしまい、主体性が下がる問題がかねてからある。ところがテラ・ルネッサンスが支援する協同組合はそうではないという。農民自らが資金を出し合い、運営することで、「自分たちの協同組合」というプライドが芽生え始めたのだ。最近は組合員が自発的にミーティングを開くようになった。
「組合員が主導する分、物事はスムーズに決まらない。だが協同組合は少しずつ前に進んでいる。その小さな成長を見るとき、この仕事にやりがいを感じる」。古岡さんは嬉しそうにこう語る。