【タイでプロになったサッカー選手・樋口大輝②】メーソットで“ワールドカップ”、難民や山岳民族の子ども集める!

樋口さんと、ミャンマーの伝統的な化粧タナカをつけた子どもたち

2011年からタイのサッカーリーグで活躍するプロ選手、樋口大輝さんはプレーのかたわら、サッカーを通じた社会貢献活動にも力を注ぐ。題して「ピース・ボール・アクション・タイランド」。タイ国内で使わなくなったサッカーボールやジャージを集めて学校や孤児院に寄付するほか、ミャンマーとの国境の町メーソットでは毎年、サッカー大会を開く。「タイへの恩返しのために始めたけれど、逆に子どもたちから幸せをもらっている」と樋口さんは嬉しそうに話す(連載第一回)。

■ボール1000個以上を寄付

ピース・ボール・アクション・タイランドを樋口さんが立ち上げたのは今から5年前。2014年のことだ。きっかけとなったのは、フェイスブックで知り合った大阪成蹊大学の林恒宏准教授の存在だった。

林准教授は2011年から、日本でサッカーボールを集め、世界の紛争地や被災地、途上国の子どもたち、孤児らにサッカーボールを届ける社会貢献活動「ピース・ボール・アクション」を続けている。プロになるチャンスをくれたタイに何か恩返しをしたいとかねがね思っていた樋口さんは、この活動に共感。サッカーシーズンの合間を縫って日本に帰国。林准教授と直接会い、ピース・ボール・アクション・タイランドを立ち上げる許可を得た。

2014年、樋口さんはさっそく、当時所属していたタイホンダFCのホームゲームでピース・ボール・アクションのブースを設置。ファンに、サッカーボールやジャージの寄付を呼びかけた。フェイスブックのアカウントも作った。集めたボールは、バンコクやバンコクの西隣のナコンパトム県にある孤児院に贈った。

ピース・ボール・アクション・タイランドはチームや選手も動かす。タイホンダFCや古巣のチョンブリFCはサッカーボールとお金を寄付。タイでプレーする日本人サッカー選手らは、お金に加えて、所属チームのジャージも無償で提供してくれた。タイホンダFCの樋口さんのチームメイトらは、試合前にもかかわらず、チームウォームアップぎりぎりまでブースに立ち、ファンに寄付を呼びかけた。

選手自らがスタジアムで寄付を訴える効果は抜群。ピース・ボール・アクション・タイランドを通して、2018年末までに累計1000個以上のボールがタイの子どもたちに渡った。

■女子しかシュートを打てない

樋口さんの挑戦はボールを集めて終わりではない。「プロサッカー選手という立場を利用して、もっとタイサッカーに貢献できないか」と考えた末に導き出した答えは、子どもたちと一緒にサッカーボールを蹴ることだった。

2015年からは毎年、ミャンマーとの国境沿いにあるターク県メーソットで、子どもたちを集めたサッカー大会「ピース・ボール・アクション・メーソットワールドカップ」を開く。メーソットは、ミャンマー難民や山岳民族が多く暮らすエリアだ。タイ国籍をもたず、タイの普通教育が受けられない子どもも多いという。ほとんどの子どもは地域のNGOが運営する学習センターで学ぶ。

小さなコミュニティーで生活する子どもたちに、少しでも世界のことを知ってほしいとの思いで“ワールドカップ”と名付けたサッカー大会。「サッカーを通して子どもたちに、スポーツの楽しさ、男女平等、チームワーク、フェアプレーといったライフスキルを伝えたい」と樋口さんは語る。

メーソットワールドカップでユニークなのは、社会勉強につながる特別なルールがあることだ。そのひとつが「男女平等ルール」。このルールでは、ワンプレーでのボールタッチが男子は4回までに制限される。また女子しかシュートを打てない。男子ばかりがボールをもってしまいがちな男女混合チームで、女子がプレーする機会を増やすための工夫だ。

「チームワークルール」がある試合では、全員がボールを触るまでシュートを打てない。またチーム分けの時も、同じ学習センターの子ども同士が同じチームに入らないようにする。

子どもたちは、ルールを守りながらチームの勝利を目指す。そのため自然と頭を使い、チームメイトとのコミュニケーションも増える。別々の学習センターの子どもたちで編成されたチームは、サッカーの試合を通して仲良くなり、いつの間にかチームの勝利を一緒に喜ぶようになるという。

■メインスポンサーは熊本のリハビリセンター

メーソットワールドカップは、樋口さんを中心とする手作りの大会だ。企画・運営に携わるのは、樋口さんのほか、メーソットで学習センターを運営するNGO「ヘルプ・ウィズアウト・フロンティア」やサッカーを使った国際協力を手がけるNGO「プレー・オンサイド」。

樋口さんは、これまでに培ってきたタイサッカー界のコネクションをフルに活用してスポンサーを募る。2018年の大会では、大塚製薬がスポーツドリンクを、モルテンタイランドが大会用サッカーボールを提供した。大会のメインスポンサーは、樋口さんの友人が運営する地元熊本のリハビリセンターだった。

大会が終わっても樋口さんには重要な仕事が残っている。スポンサーに向けて収支報告書を作成するのだ。サッカー選手にもかかわらず。

なぜここまでするのか。樋口さんは言う。「ピース・ボール・アクション・タイランドは、今はただ自分が楽しいからやっている。子どもたちの透き通った目、満面の笑顔、シュートを決めて喜んでいる姿を見ているだけで自分の心が洗われる。タイへの恩返しのために始めた活動だけど、いつの間にか、自分はまた恩をもらっている」(おわり)

“ワールドカップ”の試合に臨む子どもたち。まなざしはすでにアスリート!?

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タイリーグで活躍する日本人選手もピース・ボール・アクション・タイランドに協力する。ジャージを寄付する小笠原侑生選手(左)と村上一樹選手(右)

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世界中にボールを届ける林恒宏准教授(左)と樋口さん

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