キャンパスの外へ踏み出そう! 学生時代にアフリカを6度訪れた神戸市外大の“レジェンド”森口雄太さんが新入生にメッセージ

第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)でganas記者として取材した森口雄太さん。「これまで日本で開かれていたTICADが初めてアフリカ開催された第6回会議。歴史的瞬間に立ち会えた」と興奮気味に語る

神戸市外国語大学の“レジェンド”と呼ばれる男がいる。現在は大阪大学大学院で東アフリカの紛争解決を研究し、2019年4月から外交官として勤務する森口雄太さん(24)だ。学生時代に東アフリカへ6度渡航した彼は、迷える大学生に「大学のキャンパスの外の世界へ踏み出してほしい。やりがいを感じることが見つかるはず」とエールを送る。

■アフリカへ行きたい!

森口さんが神戸市外大外国語学部英米学科へ入学したのは2013年4月のこと。当時は、高校の英語教師を目指す普通の大学生だった。

転機が訪れたのは、入学して半年後の2013年10月だ。京都市に本部を置く国際協力NGOテラ・ルネッサンスの小川真吾理事長が神戸市外大で「アフリカの子ども兵問題と私たちに出来る事」をテーマに講演。それを聞いた森口さんは「子ども兵の問題はまったく知らなかった。アフリカの悲惨な現状を初めて知った」と衝撃を受けた。

「入学後半年の学生生活ではアフリカの情報に触れる機会はほとんどなかった。自分が大学という壁の中に閉じこもっていたことを自覚した」と森口さん。ただ周りを見渡してもアフリカに関心をもつ学生はごくわずか。そこで学生のうちに一度は海外に行きたいと考えていた森口さんは「どうせなら他の学生がめったに訪れない国へ行きたいと思い、アフリカへの渡航を決意した」と当時の心境を語る。

初めてのアフリカ渡航先はケニア。南西部にあるマサイマラ国立保護区付近の小学校で子どもたちに算数や英語を教えるボランティアに参加した。そこで知ったのは、この小学校は全寮制であるにもかかわらず、給食は十分に支給されていなかったこと。また子どもたちへの体罰も日常茶飯事だった。森口さんは「アフリカの窮状を目の当たりにし、居ても立っても居られなくなった。アフリカのために日本でもできることをしようと考えた」と話す。

■ブルンジが大好きに

森口さんは、大学2年になった2014年4月から、テラ・ルネッサンスの国内インターンシップを始めた。この団体が活動するウガンダ北部のグル県を2014年夏に訪れた。その前には中部アフリカのブルンジを訪問し、小川理事長に紹介してもらった現地NGOで1週間、インターンした。

「ブルンジの人たちは貧しい中でも暖かくもてなしてくれた。素晴らしい人たちとの出会いがきっかけで、ブルンジが大好きになった」(森口さん)

だがブルンジは日本ではあまりにも無名だ。日本大使館はない。「ブルンジのことを日本の人に伝えたい」と思い立った森口さんは大学2年の終わり(2015年3月)に、両国を紹介するビデオレターを作って交換することで文化交流をする「日本ブルンジ架け橋プロジェクト」を立ち上げた。必要な資金は「クラウドファンディング」を通じて約40万円を集めた。

ブルンジの歴史や文化を紹介するビデオレターは、ブルンジ中部のムランビヤ県にある高校と神戸市内の元町映画館で上映した。ブルンジ・日本ともに、ビデオレターに対する視聴者の反響は大きかった。元町映画館には市民や学生を含め、およそ20人が集まった。人数は少なかったが、観客からは「本音と建て前を使い分ける国民性をはじめ、ブルンジと日本の共通点を多く発見できた。ブルンジが身近に感じられるようになった」など、前向きな感想をもらった。

神戸市外大を卒業し、2017年4月に大阪大学大学院国際公共政策研究科へ進学した後もブルンジへの愛は冷めなかった。大学院では、2015年4月末にブルンジで勃発した政治危機「ブルンジ危機」について、アフリカの地域機構の紛争対応を研究した。2018年9月には研究調査のためにブルンジを再訪し、財務相やNGO職員らに、「ブルンジ危機で国際社会は危機の打開に向けて十分に対応したか」といった質問をした。

「地域機構が加盟国の紛争対応で役割を果たせなかった大きな要因は、地域機構間の連携がうまくなされなかったことだ」と森口さんは結論付ける。

■時間やお金は壁ではない

森口さんの学生時代の活動はこれだけではない。大学3年生の夏休み(2015年8月31日)にはルワンダ南西部にあるブルンジ人難民キャンプ「マハマ難民キャンプ」を訪問。2016年8月末にはケニアのナイロビで開かれた第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)も、世界の名だたるメディアの記者と同じように記者証を得て取材した。

森口さんがこれほどまで積極的に行動を起こす背景には「アフリカを含む途上国に対する無関心をなくしたい」という強い思いがある。「2015年のデータだと、日本の大手全国紙3社(朝日、毎日、読売)が掲載するすべての記事に占める国際報道の割合は文字数換算で10%以下。普通に暮らしていては途上国の情報はあまり入ってこない。だから自分が行動を起こし、情報を発信することで他の誰かが新たな行動を起こすきっかけを作りたかった」と森口さんは言う。

森口さんは2019年4月から外務省の専門職員として働く。3年の研修を経た後、フランス語圏のアフリカ諸国に配属される予定だ。NGO関係者、国際協力機構(JICA)職員、研究者、メディア関係者などさまざまなバックグラウンドをもつ人とかかわるのが楽しみだという。

「最初から外務省を目指していたわけではない。NGOを立ち上げることやJICAへ就職することも考えていた。自分が面白いと感じたことを素直に行動に移した結果、夢は変わっていった」(森口さん)

行動を起こすことにためらいを感じる学生は少なくない。森口さんは「行動を起こすうえで、時間やお金、能力は大きな壁ではない。自分が面白いと感じたことには、勇気をもって一歩踏み出してほしい。やりがいを感じることが見つかれば、学生生活がより豊かになるはず」と話す。