待機受験者は2200人以上! ベナンの人気ビジネススクールが押し出す就職難の克服方法は「起業」にあり

VELIの卒業生が立ち上げたビジネスのひとつである「ハイビスカス&レモングラス&ショウガ」のティーバッグ。12箱(1箱当たり12バッグ入り)で1万2000CFAフラン(約2500円)で売る

「学位をもっていても就職先がない」。西アフリカ・ベナンのこうした現状を克服するため起業のノウハウを伝授するビジネススクールがある。Van Duyse Entrepreneurial Leadership Institute(VELI)だ。授業は、ベナンの公用語フランス語ではなく、すべて英語。25人の少人数教育ということも人気を呼び、現在の待機受験者は2200人以上にのぼる。VELIの総責任者、リオネル・ミシグベトさんは「就職難のなか、仕事をくれるのを待っていても仕方ない。自分で起業すべきだ。“良い思考をもった良い経営者”を育てたい」と述べる。

■学生1人にキンドル1台

「良い思考をもつ良い経営者を育てるために欠かせないのは読書だ」。これはミシグベトさんの持論。なぜなら良い思考を得るにはたくさんの知識を得る必要があるからだ。

VELIではすべての学生にキンドルを配り、学生は毎週1冊、課題として出された英語の本を読まなければならない。課題図書は、日本でもベストセラーになった「ビジョナリーカンパニー2、成功への飛躍」(ジム・コリンズ)や「初めの一歩を踏み出そうー成功する人たちの起業術」(マイケル・ガーバー)といったビジネス書など。学生らがもつキンドルには合計300冊以上の本がダウンロードされている。

ミシグベトさんによると、ベナン人は本を読む習慣がないという。ベナンには本屋の数も少ない。いつでもどこでもアマゾンでダウンロードできる便利なキンドルは勉強熱心な学生にとって“小さな図書館”となっている。VELIが用意する本はすべて英語。世界クラスの起業家になるには英語が欠かせないというのが理由だ。

VELIに入るにはまず、入学時にTOEFL ibtテストを受ける。だが入学時には、英語で授業を受けられるレベルに達していない学生がほとんど。そこで最初のセメスター(6カ月)では英語を集中的に学び、英語で授業を受けられるようになることを目指す。

英語の学習では、3000ワード以上の英単語を頭に叩き込む。同時に、全世界で4万3000以上の団体(日本では800以上)が導入する有名な言語学習ソフトウェア「ロゼッタストーン」を使い、読む・書く・聞く・話すの4つの技能の向上を目指す。

「最初のセメスターはつらい。挫折する人もいる」と同校の1年生ナディージェ・ニョンヒンさんは言う。ニョンヒンさんの場合、1度目のTOEFL ibtのスコアは35だったが、厳しい英語の授業のおかげで2回目は86にまで伸びた。

英語の最終試験をクリアした学生はようやく英語の読書課題に進む。この課題では、一冊読み終えるたびに、理解度を図るため、学生らは筆記テストを受けなければならない。その後、2~5人のチームに分かれる。それぞれのチームにはメンターが付く。メンターはチームのメンバーに本のエッセンスに沿った質問をし、その答えをベースに各チームは他の学生の前でプレゼンテーションするというのが流れだ。

■ハイビスカスのお茶で起業

VELIは3年制のプログラムだ。ひと学年の学生数は100人。1クラス25人の少人数教育がウリだ。

VELIを休学中で、食事のデリバリービジネスを立ち上げたクラリス・ソホニューさんは「クラスの人数が少ないからこの学校を選んだ。とても濃い授業が受けられた。他の大学に行ったら英語の授業は100人以上いる」と言う。驚くべきは、ベナン人だけでなく、トーゴやナイジェリア、ブルキナファソ、マリなど西アフリカ諸国から学生が集まっていることだ。

少人数の授業に加えてVELIが人気を博す理由は、奨学金制度が整っていること。年間の学費は最大78万CFAフラン(約15万6000円)だが、1クラス25人のうち上位5人の成績優秀者は無料に。それ以外の成績優秀者15人はテストの成績と家の経済状況、面接の結果次第で、年間の学費は5万~45万CFAフラン(1万~9万円)に減額される。

ミシグベトさんは「VELIは貧しい人にも開かれた学校。だから入学テストを受けるのを待っている学生は2200人以上もいる」と説明する。

またVELIは実際、その目的通り、起業家を輩出している。卒業生のひとりモスタファ・ギローさんは学生時代の2017年に、お茶ビジネスを始めた。彼が売る商品は、ベナンでポピュラーなハイビスカスティーに、レモングラスとショウガを加えた特別なティーバッグだ。大きな特徴は、すべての原料はベナンの地方で採れたものであること、無添加であることの2つ。顧客からの評判も上々だ。

2018年の売り上げは286万CFAフラン(約57万円)、利益は42万CFAフラン(約8万4000円)。創業2年目にして黒字化を達成した。同じ西アフリカのコートジボワール、ブルキナファソ、トーゴへの輸出も始めるなど、今後は一層の飛躍を目指す。