ベナンでキリスト教一派「エバンジェリズム」の信者増加中、牧師は「副業」と「結婚」がマスト!

エバンジェリストと建築家の二刀流のマイク・ジョシューさん(38)と二人の息子(ベナン・アボメカラビで撮影)

西アフリカのベナンで、キリスト教の一派である「エバンジェリズム」の信者が増えている。同国南部のアボメカラビ市在住の牧師(エバンジェリスト)、マイク・ジョシューさん(38)は布教活動をするかたわら、建築デザイナーとして働く。エバンジェリストは副業をすることが条件になっているからだ。

ベナンでは最大宗派

ベナンのキリスト教は、カトリック、古くからのプロテスタント(メソジスト、バプティスト、アドベンティストなど)、エバンジェリズム、セレス(ベナンの民間信仰ブードゥー教とエバンジェリズムがミックスしたもの)の4つに大別される。植民地時代にカトリックが入り、そこからプロテスタントが、プロテスタントからエバンジェリズムが、エバンジェリズムからセレスが分離して現在に至る。

エバンジェリズムの一番の特徴は、布教に専念するところ。エバンジェリストは、人々にキリスト教を教える先生であると同時に、先頭に立って布教をするリーダーだ。

信者になるための儀式は2つある。1つが「洗礼」。復活祭(イースター)当日(イースターサンデー)の1週間前の日曜日に受けることができる。このタイミングが年に1回のチャンスだ。洗礼の儀式では、頭からつま先まで川の中に全身入って、出ることを3回繰り返す。

洗礼とセットとなっている儀式が、2つめの「聖体拝領」だ。イースターサンデーに参加できる。参加者はエバンジェリストの前に一列に並び、キリストの体を象徴するパンと、血を象徴するワインを受け取って食べる。これに参加して初めて、エバンジェリズム信者として認められる。エバンジェリズムの信者になると、聖体拝領に毎年参加することとなる。

「赤ちゃんのときに洗礼を受けるカトリックと違って、エバンジェリズムの信者になるには自分の意志が必要だよ」とジョシューさん。洗礼と聖体拝領の意味を理解できる18歳前後から信者になるのが通常だという。ジョシューさんは18歳のとき洗礼を受け、初めて聖体拝領に参加した。その後、どんどん信仰を深めていった。

5年かけてエバンジェリストへ

ジョシューさんは21歳のとき、神の存在を実感する経験をした。「お兄さんが病気になり、医師に死を宣告された。それでも僕は祈り続け、お兄さんは奇跡的に回復した。今では4人の子どもができて、仕事も元気にやっているよ」。祈りが神に通じたと感じることが何度もあり、エバンジェリストを目指そうと決心した。

エバンジェリストになるためには、およそ5年のトレーニングが必要だ。最初の1~2年は、信者の子どもたちに、絵本や漫画、TVを使って聖書の意味を教える。その後、エバンジェリストのアシスタントになり、聖書学校(神学校のひとつ)に1年間通う。聖書学校を修了すると、エバンジェリストとして認められる。

エバンジェリズムの信者であるベナン人の若者は「エバンジェリストになるのは大変。トレーニングをいったん始めたとしても、仕事と両立できず、半分くらいが諦めてしまう」と語る。トレーニングの期間はあくまで目安で、その人の実力次第でトレーニング期間が延長されることもざらだ。

特筆すべきは、女性もエバンジェリストになれること。ただその数は少ない。「ベナンでは女性が家事や子どもの世話をするのが普通。そんな中、エバンジェリストのトレーニングを受ける時間をつくるのは本当に大変。しかも女性の場合もお店をもつとか、エバンジェリストのほかに仕事をしないといけないからね」(信者のひとり)。女性がエバンジェリストになるから、代わりに男性が家事をする、といった考えはまだ広まっていないようだ。

パラレルキャリアと結婚が条件

エバンジェリストになって10年が経つジョシューさん。もうひとつの仕事である建築デザイナーは、フリーランスとして、時間や場所に左右されずに働く。エバンジェリストに専念するための工夫だ。収入源となる仕事を他にもつことがエバンジェリストの条件である理由は、教会の会計の役割を担うエバンジェリストが、お金を盗むのを防ぐためだ。

結婚をすることも、エバンジェリストになるための条件。エバンジェリズムは、男性が複数の女性と結婚することや、結婚前に女性と性交渉することを禁じる。エバンジェリストがこうしたルールを破らないようにするための予防策になっているのだ。

現在、1歳と3歳の息子と、妻と暮らすジョシューさん。子どもには必ずエバンジェリズムを信仰し続けてほしいとのこと。ジョシューさんは「目標は、3000人の信者が集まれるような大きい自分の教会を建てて、もっとたくさんの人に信仰を広めることだよ」と語る。