「タイ経済のためにもミャンマー人労働者に最低賃金を払うべき!」 ストも辞さないNGOがバンコク郊外の出稼ぎの町にあった

マイグラント・ワーカー・ライツ・ネットワークの事務所で、ミャンマー人労働者に最低賃金を払う意義を熱く語るタイ人のスタシニ・ケオレックライさん(タイ・サムットサコーン県マハチャイ)

「ミャンマーからの出稼ぎ労働者にも、タイ企業は最低賃金を払うべきだ。なぜならタイ経済を循環させることにつながるからだ。人権を守るだけではない」。こう語るのは、タイの中でもミャンマー人労働者が多く集まるサムットサコーン県マハチャイで、ミャンマー人労働者の労働環境の改善を目指すNGO「マイグラント・ワーカー・ライツ・ネットワーク」(MWRN)のプログラム・コーディネーターを務めるタイ人女性スタシニ・ケオレックライさんだ。ミャンマー人労働者らは、最低賃金をもらえないだけでなく、残業代の未払いや不当解雇など、企業から不当な扱いを受けやすい現状がある。

MWRNの活動の柱は、ミャンマー人労働者を雇う企業に対して、最低賃金や残業代の支払い、労働時間の順守を求めるよう働きかけること。ときにはストライキも辞さない。ただMWRNは労働組合ではなく、出稼ぎ労働者の支援団体のひとつだ。このためストライキを打つ際も、できることは「サポート」にとどまる。

タイ人であるにもかかわらず、ミャンマーからの出稼ぎ労働者への支援を仕事とするスタシニさんによると、企業が最低賃金を払うべき理由は3つある。

第一は人道的な観点だ。国連が2030年までに達成を目指す「持続可能な開発目標 (SDGs)」をみても、目標8「働きがいも経済成長も」のなかで「移住労働者・特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利の保護、安全・安心な労働環境の促進」と明確にうたっている。

第二に、犯罪を予防する観点だ。スタシニさんは「賃金と犯罪発生率の間には相関関係がある。賃金が低いと、生活するために犯罪に手を染める傾向がある」とはっきり言う。

第三は経済を回す観点。適正な給料を払うことで、労働者の購買力は高まる。この結果、モノが売れるようになり、タイ経済に好循環をもたらす。ただスタシニさんは「サムットサコーン県で定められる1日325バーツ(約1100円)という最低賃金では生活は厳しい」と現実を語る。

MWRNの活動が最も成果を出したのが、2016年に打ったツナ缶製造工場でのストライキだ。マハチャイにあるこの工場を経営するのは、タイ国内で、ツナ・イワシ・サバ・サンマ・サーモン缶最大手のゴールデン・プライズ・カニングだ。同社のツナ缶は世界中に輸出される。

マハチャイの工場に勤務する従業員数はおよそ1600人。この大半がミャンマー人だ。ストは、最低賃金や残業代の支払いなどを求め、決行された。最低賃金は受け取っていたものの残業代をもらっていなかったタイ人労働者らは当初、職を失うことを恐れて参加を渋っていたが、MWRNは粘り強く従業員全員に参加を呼びかけ続けた。

最終的にタイ人労働者もストライキ参加に同意。2日間にわたるストライキを行った結果、8000万バーツ(約2億8000万円)が従業員らに支払われた。従業員1人当たりの取り分は約5万バーツ(約17万円)。MWRNのサポートが労働者の勝利につながった形だ。

ただゴールデン・プライズ・カニングはストの後、従業員らに対して嫌がらせをし始めた。労働者を監視するためにカメラを設置し、軍服を着た警備員を工場内に配置したりした。同社は同時に、MWRNが運営する生徒数約500人の学校に毎月8000バーツ(約2万8000円)を寄付するようになった。スタシニさんは「黙って受け取っているけど、『ゴールデン・プライズの言うことを聞け』というわいろにも映る」と首をかしげる。

実は外国人労働者を雇う地元企業2社から労働争議に絡んで訴えられているスタシニさん。だが「企業の外国人労働者に対する違法行為に対しては監視の目を緩めることはない」と力強く語る。