西アフリカ・ベナンにあるアフリカ最大の水上都市ガンビエでは、「アカジャ」と呼ばれる伝統的な魚の養殖技術が盛んだ。ベナンの漁業法が適用されないこの場所では、驚くことに、養殖するための仕掛け(これもアカジャと呼ぶ)をどこでも自由に設置できる。木の枝をたくさん使うから、お金や手間もあまりかからない。
ガンビエは、ベナン南部にあるノクエー湖の上に、奴隷狩りから逃れた人たちがもともと作った集落。住民の多くは漁師だ。湖の上にはたくさんの囲いがあるが、これは養殖する魚が逃げないようにするアカジャ。これを完成させるのに約2年かかる。
アカジャに必要なのは、ナイロン製のネットとたくさんの枝だ。枝には主に3つの役割がある。1つめは、魚を閉じ込めるための囲い。雨風に耐えられる硬い枝を、湖底に一本垂直に突き刺す。そこにネットを張る。
2つめは、中くらいの硬さの枝を湖底に刺すことで、魚たちの隠れ家になること。魚が産卵する場にもなる。
3つめは、魚のエサ。アカジャの中に投入された枝は、水中で分解され、有機物を供給し、魚のエサとなるプランクトンの発生を促す。枝そのものも水中で1年ほど経てば魚は食べるという。
エサができればあとは簡単だ。養殖といっても、エサやりもない。エサにつられてネットの中に入った魚はもうネットから逃げられない(ネットの中に入れるが、出られないようになっている)。こうして集まった魚を一網打尽にするのがアカジャだ。
育った魚は2~3カ月後に出荷可能。すべての魚を収穫するには数週間かかる。捕れる魚は7種類あり、カルぺが全体の80%を占める。囲いとネットは魚を収獲した後、いったん壊し、また一から作り直す。
アカジャをする際に必要なのは資金だ。広さ1ヘクタールのアカジャを作るのにかかる費用は300万CFAフラン(約60万円)。最初の設置費・維持費さえあれば、いつでもどこにでもアカジャの設置は可能だ。「いい場所を見つけられたら、日本人でも明日から漁師になれるよ」と、漁師歴60年のダンソー・ホンサさん(70)は語る。
ベナンの漁業法はガンビエでは適用されない。そのため養殖する場所の使用は自由で、お金もかからないが、ガンビエ独自の決まりもある。たとえばアカジャから魚を盗んだ者は村から追放される。だが平和なガンビエではそうしたことはめったに起きないという。漁師がアカジャを確認するのは2週間に1回程度。誰かが毎日見張ることはない。
ホンサさんは「仮に設置済みのアカジャの隣に、違う人がアカジャを作っても、けんかにはならない。ガンビエの住民はみんな、魚がとれる限界を知っているから。ガンビエはとても平和だ。私は死ぬまでずっとガンビエの漁師を続けたい」と言う。