アフリカの農業支援で大事なのは「地域目線」! その理由を国際協力NGOに聞いてみた

南アフリカで孫と暮らすノピリシレさん。「畑を始めて3カ月。新鮮な野菜を毎日食べられるので、孫も私も元気になった。交通費をかけて町に買い物に行かなくて済む。食べ物が値上がりしても、その影響を受けないから安心」と嬉しそうに語る

「アフリカの農民の生活を良くするには、その土地にあった“地域目線”の農業”を推し進めることが大切」。これは、老舗の国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター(JVC)」のスタッフで、環境保全型農業(有機農法)を南アフリカで普及させる活動を10年あまり続けてきた渡辺直子さんの言葉だ。

■有機農法はピンチに強い

南アフリカでJVCが進めてきたのは、環境への負荷が小さく、またお金もかからない有機農法だ。家畜のふんを発酵させて作ったたい肥を畑にまき、化学肥料や農薬は一切使わない。育てる作物は在来種。病虫害が作物につかないよう、さまざまな作物を組み合わせて栽培する。

種は、前年に収穫した際にとっておいたものを使う。水は、池にためた雨水を利用する。すべてその地域にあるものだ。「有機農法の知恵と地域の資源を生かす。そうすることで、農業が初めての人でも、さまざまな作物を1年中作れるようになる」と渡辺さんは言う。

渡辺さんはかつて、自給自足できても、お金を稼ぐ手段がなくては生活が良くならないのではないか、という疑問をもっていた。ところが南アフリカで活動を続けるうちに、「有機農法は経済危機に強い」と考えが変わったという。

そのきっかけとなったのが、2008年に世界中で起きた食料価格の高騰だ。渡辺さんはこのとき、都市部で暮らすシングルマザーに家計に与える影響を聞いてみた。すると「給料の額は変わらない。だからスーパーマーケットで買う量を減らすしかない」との答えが返ってきた。つまり食べる量を少なくするわけだ。

対照的に、JVCが支援する農民の生活ぶりは変わらなかった。自分が食べるものを家庭菜園でまかなう農民にとって、食べ物は庭にあるもの。スーパーマーケットに行かなくて済む。国際市場の価格変動に左右されない自給自足の暮らしでは、食べる量を減らす必要もない。

■貧しさは作られる!

南アフリカ政府がかつて実施していた農業政策に「食料増産援助」がある。「種子・化学肥料・農薬・トラクター」をセットにして、小規模の農家に提供するものだ。だがスタートしてすぐに、農民に借金が残ることがわかった。

5年のプログラムである食料増産援助は、1年目こそ「セット」料金は無料。だが2年目は料金の25%、その翌年は50%、さらにその翌年は75%、5年目以降は農民が100%負担することになっている。

渡辺さんによると、食料増産援助の問題は、提供される種子が在来種ではないので、その地域の土地にあっていないこと。収穫するまでに大量の化学肥料と農薬を使う。灌漑設備を引き、大量の水も確保しないといけない。種も自家採種できないため毎年買う必要がある。

「その結果、出費はかさむし、土地は痩せていき、収量は下がる。ほとんどの農家が借金を背負うことになった。地域の特性を無視した支援は、貧困を作り出す」。渡辺さんはこう指摘する。