
コロンビアの左派ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)の元幹部で、10月下旬に行われるアンティオキア州議会選挙に立候補する人がいる。マヌエル・ゴンサレスさん(55)だ。「和平合意から約3年経った。だがコロンビア政府は約束を守っていない。コロンビア政府はまず国民に土地を返すべきだ」と訴える。
■虐待された幼き日々
ゴンサレスさんがFARCに入隊した大きな理由は「貧しさ」だ。生後3カ月のときに両親が離婚。木こりとして働く父と一緒に過ごした。父は仕事柄、木があるところへ移動する。ゴンサレスさんもそれに合わせて転校を繰り返した。家庭はとても貧しかったという。
幼かったゴンサレスさんを、父の知り合いが家で面倒を見てくれていた。ところがその知り合いは、父が見ていないところで、ゴンサレスさんと姉を虐待していた。
「病気にたくさんかかった。自分の居場所もなかった」。ゴンサレスさんはこう淡々と語る。
ゴンサレスさんが7歳のとき、苦境を理解した父の友人に養子にしてもらった。父と別居することになったが、生活は安定した。
■FARCに親しみ感じる
16~18歳のとき、共産主義やFARCと出会う。貧しい人を援助する共産系団体の活動は自分の貧しさと重なった。「庶民のために」と訴えるFARCに、心のつながりを感じた。FARCのメンバーは当時(1990年前後)、コロンビア中の村々を回り、勧誘を目的としたスピーチを繰り返していた。
21歳のときに共産党に入った。27歳でFARCに加入。FARCでは、共産党での経験を生かし、「庶民のために」というイデオロギーやマインドをメンバーに刷り込む重要な「ブレイン」として活動した。
「優秀な戦闘員は1カ月でつくれる。だが頭脳やイデオロギーで突出した人間を見つけるのは難しい。だから私が戦場に送られることはあまりなかった」とゴンサレスさんは説明する。
内戦下でゴンサレスさんを一番苦しめたのは「仲間の死」だった。
コロンビア政府と政府系(右派)ゲリラ「パラミリタレス」は、FARCへ物資が渡らないよう阻害したことで、FARCのメンバーが食料品や医療品を手に入れるのは難しくなった。このため仲間が負傷しても治療できなくなったという。またFARCのメンバーは、コロンビア政府に捕まれば拷問にあう。
「FARCのメンバーは家族のようだった。だからメンバーの死はいつも心に穴が空く」(ゴンサレスさん)
■ゲリラに戻る元FARC兵も
コロンビア政府とFARCの間で和平合意が結ばれておよそ3年経つ。だが合意内容は完全に遂行されていない。とりわけ問題なのは、内戦中に奪われた土地の再配分だ。政府がいまも所有しているケースが少なくない。
10月の州議会選挙を控えてゴンサレスさんはこう訴える。
「政府は、和平プロセスがうまくいっていると言う。だが実態は違う。政府は約束を守っていない。まずは国民に土地を返すべきた。住む場所と働く場所が必要だ」
土地を返さないことで、せっかく前進した和平が台無しになる可能性もある。ルーテル教会のスタッフとして元FARCメンバーを支援するエドウィン・マスケラさん(34)は「土地を持てないことや生活の苦しさが原因でゲリラにリクルートされる元FARC兵や農民が後を絶たない」と明かす。
元FARCメンバーへの攻撃がやんでいないことも大きな問題のひとつ。マスケラさんによれば、2018年11月~2019年5月に135人の元FARCメンバーが殺され、500人程度が内戦中の行為に関する判決を待ったまま政府に監禁されているという。
停滞する和平合意。ゴンサレスさんは「国際社会のサポートが必要不可欠。和平合意を前に進めるためにも助けてほしい。日本で『(元FARCや人権活動家の)殺害を止めて』と言うだけでも意味がある」と語気を強める。
和平合意がコロンビアの国会で承認された2016年11月24日、「平和をつくることは可能だ」と感じたというゴンサレスさん。「われわれは完全な平和をつくらなければならない。政府には、FARCとだけではなく、民族解放軍(ELN)といったほかのすべてのゲリラと対話してほしい」と語る。