「エンベラチャミ族の伝統を発信したい」。こう語るのはソレ・ニアサさん。19歳だ。ソレさんはコロンビア第2の都市メデジンからバスで4時間ほど行った先住民保護区「カルマタルア」に住む。家族を支えるために伝統工芸品の制作と家事をこなしながら、1カ月のうち1週間は近くの町に泊まり込み、農業の専門学校に通う。そんな彼女は、専門学校が主催する写真コンテストで「先住民と先祖」をテーマに作品を撮り、優勝を目指す。
■工芸品はワッツアップで売る
1カ月のうち3週間暮らすカルマタルアでは、1日は朝の5時半に始まる。ソレさんは4人きょうだいの長女なので、食事や洗濯、掃除に加えて、伝統工芸品も作る。忙しい毎日だ。
彼女が作るのは、ビーズのようなもの(チェキラス)をつなげたネックレスやブレスレット、ピアス、イヤリングなどだ。顧客のほとんどが外国人の観光客だという。
工芸品を売る方法は2つある。ひとつは、母が1カ月に1度、メデジンに売りに行くこと。もうひとつは、カルマタルアを訪れる観光客が直接、ソレさんの作業場で買うものだ。工芸品を見た観光客から、デザインやサイズの注文をメッセンジャーアプリ「ワッツアップ」で受けることもある。
インディヘナが作る工芸品には数多の意味が込められている。たとえばソレさんが制作中のネックレスは、持ち主に「人生に直面する多くのトラブルを乗り越える力」を与える。またカラフルな色はさまざまなトラブルを、四角い形で統一されたデザインはさまざまなトラブルが実は同じようなものであることと扉を表すことから、そのトラブルの解決につながる扉が開くことを意味する。
■イメージを写真で覆す!
家事・勉強・仕事と忙しい日々を送るソレさんの楽しみは、自然や人の写真を撮ること。そんな彼女は最近、専門学校の写真コンテストにエントリーすることを決めた。彼女が選んだテーマは「先住民と先祖」だ。
このテーマに決めたのは、映画やテレビ、本などの影響から、多くの人が先住民にもつイメージが歪んでいると感じているからだ。「私はそのイメージを写真で覆したい。このコンテストで私たち先住民でも多くのことができることを示したい」とソレさん。「先住民に関心をもってくれることは嬉しいけど‥‥」
ただソレさんはカメラを持っていない。なので母親のスマホを使って写真を撮る練習をしている。コンテストの賞品はカメラ。エントリーするにはカメラが必要だったが、学校から特別に2カ月間カメラを貸してもらえるという。
■伝統的な農業を復活させたい
ソレさんは1カ月のうち1週間、カルマタルアからバスで5時間半のところにあるマレニーニャ町の専門学校に通う。専攻は農業生態学。具体的にはトマトの育て方、土壌の仕組み、動物の去勢方法などを学ぶ。授業は朝から晩まで。学校から家が離れている学生向けに、1週間で1カ月分の授業を受けられるプログラムを利用する。
農業生態学の知識を使ってソレさんは「本来の自然に優しい農法を復活させたい」と言う。理由はこうだ。
彼女によると、カルマタルアでは殺虫剤や除草剤をまいたり、過剰に収穫したりといったサステナブルでない行為がまん延している。「私たちの文化のひとつである農法が失われつつある。学校で学んだ生態系に配慮した農業の知識を、先住民らに教えたい」