建国の父マハトマ・ガンジーにインスパイアされたインドの若者たち(当時)が立ち上げたNGOがある。およそ70年の歴史を誇るガンジー・セバ・サンガ(GSS)だ。コルカタ郊外の地域に暮らす貧しい人たちに対して、医療サービス、職業訓練、教育を格安で提供してきた。GSSの幹部は「ここは保険もお金もない人たちのための診療所。誰も断らない。西洋医学より伝統的な療法ホメオパシーの方が人気が高い」と話す。
■ホメオパシーが15円!
GSSが提供する格安医療サービスの最大の特徴は、西洋医学をベースとする現代医療と、一風変わった自然療法「ホメオパシー」の2つをそろえていること。腹痛や下痢などは現代医療で、慢性的な関節痛などはホメオパシーで診るのが一般的だ。ホメオパシーとは、その病気を引き起こす「原因物質」を薬として内服し、自己治癒力を高める治療法。この古い診療所では、患者がどちらか好きな治療法を選ぶ。
現代医療では、3人の医者で週6日診療する。1日訪れる患者は平均20人。一方のホメオパシーは、2人の医者が週5日で対応。やってくる患者の数は、現代医療の1.5倍にあたる1日平均30人だ。勤続30年のジャルナ・パルチュトゥリ女医(80歳)は「ホメオパシーでは、木や花など自然の原料で薬(レメディ)を作る。副作用がないことから、患者の間で人気が高い」と話す。
この診療所の薬代は無料。診察代も10~20ルピー(約15~30円)と格安だ。「インドには(一部の人にとっては)完全無料の公的な医療施設もある。ところが混雑がひどいために何時間も待たされる。それを嫌がる人たちがこの診療所にやってくる。ここでは最後の一人まで診てからドアを締める。誰も断らない」とGSS幹部は胸を張る。
格安で、近くにあって、短時間で診てくれる――。この診療所は“安近短”の庶民の味方なのだ。
■子どものために貯金
GSSはまた、地域住民を対象にした職業訓練を提供する。そのひとつが「服の仕立てコース」。診療所のとなりにある、古いミシン9台が置かれた小さな部屋が教室だ。期間は1年間。土曜と日曜の週2回、朝10時から午後3時まで。受講料は1カ月200ルピー(約300円)と格安だ。スカートやベストなどを作り、完成したものをそれぞれ売る。
先生は、近所に住むビナ・マカールさん(60歳)。このコースで25年近く教えている。「一人暮らしで寂しくしていたので、人の役に立ちたいと思って始めた。昔から洋裁が得意だったから」と話す。
現在の生徒は20~30代を中心とする8人の女性。歩いて数分の近所に住む主婦がほとんどだ。幼い子どもをもつ母親らは、安くて近くてとても助かっているという。
「市民のための安い洋裁コースは他にもあるけど、ここは私たちが作りたいものを作らせてくれるの。ネットで好きな洋服のデザインを選んで、先生に作り方を教えてもらえる。先生もすごく良い人だから、毎週みんなで集まるのが楽しい」(生徒たち)
完成した洋服は近所の友人や知り合いに売る。値段は、ベストなど布の量が少ないものなら300ルピー(約450円)、ウェディング用などのドレスだど1000ルピー(約1500円)。特に、ディーワーリーやホーリーなどヒンドゥー教の祭りがある月は売れ行きが良いという。
彼女たちにとって仕立て技術は家計の足しになる。「ここで得た収入は銀行に貯金している。けっこうたまるのよ。子どもの教育費にしたいからもっと頑張りたい」と受講者のひとりは目を輝かす。
ガンジーの尊称「マハトマ」は「偉大なる魂」という意味だ。GSSが庶民のために施すさまざまなサービスには、ガンジーのスピリットがいまだ生き生きと根付いている。