日本でオンライン英会話を受講すると、フィリピン人教師が出てくることは珍しくない。フィリピンでは実際、英語教師は給与の良さからあこがれの職業のひとつ。ところが女性教師たちの仕事や、将来についての本音は複雑だ。フィリピンの中でも英語の語学学校が最も多いセブで教師として働く5人の若い女性に話を聞いた。
「フィリピンの女性の間で一番人気がある職業は教師」と話すのは22歳のステラさん。だが給料が安いため、資格をとる勉強も並行して行い、さらにランクの高い学校への転職を目指している。
別の女性教師は「フィリピン国内には給料の良い仕事がないのが問題。みんな出稼ぎで海外に出て、家族がバラバラになる」と嘆く。働く女性教師の本音は複雑だ。
■人気の職業の「教師」それでも‥‥
フィリピン人女性に人気の職業といえば、「教師、フライトアテンダント、ホテル」だ。大学を卒業していれば、語学学校の教師として働ける。セブをはじめ、フィリピンの語学学校には日本を含めたアジアから多くの生徒が集まる。教師の人気は高まっているという。
教師になって間もないステラさんは、平日は語学学校で英語を教えながら、土日は大学院に通う。教師になるのを目標としてきたが、いまの目標は大学院で修士号を取って自ら教師を育てる先生になることだ。
実は語学学校の教師の月収は1万ペソほど(約2万円)と、フィリピンの平均的な水準。決して良いわけではない。そのため希望の教師の仕事に就いても、より良い給料のために、資格の取得を目指す人が多い。
ミシェルさん(33)は、7歳の娘をもつシングルマザーだ。母親と3人で暮らす。以前はイランとアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの会社に出稼ぎに行ったが、帰国して一念発起。大学に社会人入学し、卒業後に英語教師となった。「いまの目標は博士号をとること。大学や専門学校の教師になりたい」と話す。若い教師たちの好奇心は旺盛だ。
■“一家離散”しないための英語教師?
フィリピンは伝統的に、家族をとても大切にする国だ。「日本人の価値観に驚いた」と話すのは、23歳のウェルビーさん。「結婚するのに、愛とお金のどちらを選ぶか」をテーマに、自分の教室で、生徒に英語でディスカッションをしてもらったときのこと。日本人や台湾人の生徒が「お金」とあっさりと答えたことに驚きを隠せなかった。「フィリピンでは、みんなお金よりも愛を選ぶ。お金がなくても、一緒に働いてお金持ちになればいいと思う」というのがウェルビーさんの考えだ。
そんなフィリピンの家族が、“一家離散”となることは珍しくない。国内に仕事がなく、出稼ぎに頼らざるを得ないからだ。総人口の1割が出稼ぎとして外国で働き、そうした出稼ぎ労働者からの送金が国内の経済を支えてきた。
「弟は愛知県の自動車部品工場で短期労働者として働いているの」と話すのは30歳のチャーリンさん。あと2年は弟に会えないのだとさみしそうに話す。ウェルビーさんも親せきが出稼ぎに行っていて、親せきの子どもたち5人と同居する。おばは香港にナニー(ベビーシッター)として、おじはフィリピン南部のミンダナオでダンプカー運転手として働き、里帰りするのは年に1度。一家はバラバラだ。
そうしたなかでも教師は、フィリピン国内で働き続けることができる数少ない良い職業のひとつといえる。一家を支える覚悟を決めた彼女たちの意志は固い。
■家族計画から変わるか
そんな彼女たちがとりわけ批判するのが、「子だくさん」のフィリピン社会だ。子どもが10人を超える家庭も少なくない。避妊や中絶を伝統的に認めないカトリック教徒が人口の80%を占め、子どもが多いことが幸せという考えも根強いからだ。しかし、そうした状況が家計を圧迫し、貧困層に押しやっていると彼女たちは危機感を募らせる。
チャーリンさんのおばは14人の子どもを産んだという。「ふつうは、帝王切開で一度出産すると、自然分娩は危険なので医師は認めない。だがおばは何度も自然分娩を繰り返し、とうとう最後には不妊手術をした」とあきれ顔だ。
5人きょうだいのウィルマさん(22)は「フィリピン政府は家族計画を推進してこなかった。コンドームは雑貨屋で手に入るが、みんな関心がない」と、政府の無策ぶりを批判する。
フィリピンのドゥテルテ大統領は2022年までに、現在20%を超える貧困率を13%未満にすることを目指すとしている。そのための方策のひとつが、避妊具の無料配布。フィリピンの女性ひとりが生む子どもの数の平均は年々少しずつ減り、いまや2.9人となったという。