タイでいま、サッカーブームが起きている。タイの調査機関が15歳以上のタイ人を対象に2018年に実施した調査で、国内リーグ1部を「見ている」と答えた人の割合は48.8%。前年の28.2%から大きく伸びた。そんなタイサッカーの熱狂の裏には、西野朗氏(64)のタイ代表チームの監督就任など、日本サッカー界との大きなつながりがあった。
タイの英字紙バンコクポストの9月10日付スポーツ面(9月10日付)のトップ記事は「『ゴールを決めろ』西野監督がタイ代表に注文」だった。
2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)で日本をベスト16に導いた西野氏は2019年7月末に、タイ代表監督に就任した。ロシアW杯の終了後に日本代表監督を辞めていた。
彼の就任会見をテレビで見ていたというサマーイ・ソンガートさんは「西野監督の就任はビッグニュース。タイ国民の大きな期待を背負っている」と熱く語りだした。
サマーイさんは、5日に行われた、西野監督の初陣・ベトナム戦を自宅で観戦した。0-0のスコアレスドローだった結果について「タイ代表のサッカーは西野監督のレベルに達していなかった」と残念そうに振り返った。
ベトナムは、実は東南アジアではサッカー強豪国。2018年秋に開催された東南アジア大会で優勝した。タイはこの大会で準決勝敗退。ベトナムはタイにとって宿敵といえる存在だ。
この試合で10番をつけたのは、チャナティップ・ソングラシン選手。2017年からJリーグ1部コンサドーレ札幌に所属する選手だ。2018年シーズン、東南アジアの選手として初めて、Jリーグ年間ベストイレブンに選ばれた。
今季はチャナティップ選手だけでなく、横浜Fマリノスのティーラトン選手と大分トリニータのティティパン選手もJ1リーグで活躍している。そんなタイ人Jリーガー3選手はベトナム戦に先発出場した。
この中でとりわけ絶大な人気を誇るのはチャナティップ選手だ。インスタグラムのフォロワーは206万人。これは日本代表の香川真司選手や長友佑都選手のフォロワーおよそ160万人よりも多い。チャナティップ選手について、大学生のワットチャラコーンさんは「タイのスポーツ界で一番有名な選手は彼だ。タイ人ならみんな知っているよ」と語る。チャナティップ選手への期待は大きい。
ただタイ国民の間では「チャーン・スック(戦う象)」(タイ代表の愛称)の強さを信じきれない声もある。大学生のパチャラさんは「W杯に出るには10年以上かかると思う。世界の舞台に出場するなんて信じられないよ」と現状を冷静に分析する。
タイだけでなく、東南アジアでは3カ国で日本人が代表監督を務めている。カンボジア代表は本田圭佑氏、シンガポール代表はJリーグで長年指揮をとってきた吉田達磨氏だ。9月1週目から始まったアジア2次予選は2020年6月まで。合計12チームが残る最終予選で、日本と3カ国が対戦する機会があるかもしれない。