タイ中部のサムットサコーン県マハチャイは、ミャンマーからの出稼ぎ労働者が集まる町だ。ここにあるワット・テープナラント(テープナラント寺)のミャンマー人住職サムモンチャイ僧侶は、ミャンマー人出稼ぎ労働者にとってセーフティネット的な存在だ。出稼ぎ労働者のためにこの寺の建設に奔走したり、給料の未払い分の支払いを求めて工場のオーナーに掛け合ったり、寺の中に「学習センター」を作ったりしてきた。
ワット・テープナラントが建ったのは2011年。「タンブン(徳を積む)をする場所がほしい。ミャンマー人が集う場所がほしい」との出稼ぎ労働者からの要望を受け、モンチャイ僧侶が寄付を呼びかけた。これまでミャンマーの寺はこの地域になかったという。「ミャンマー人が集まる寺でタンブンができるようになって嬉しい」と寺に通うミャンマー人たちは口をそろえる。
モンチャイ僧侶はまた、ミャンマー人労働者が抱える未払い分の賃金を取り戻す活動にも力を注ぐ。サムットサコーン県の最低賃金は1日325バーツ(約1100円)。だが労働者らに払われていたのは245バーツ(約860円)のみ。80バーツ(約280円)足りなかった。未払い総額は8064万バーツ(約2億8000万円)にのぼる。
マハチャイの工場で働くミャンマー人労働者2800人は2018年末、「最低賃金が払われていない」と工場のオーナーに対して抗議した。だが工場側は「未払い分は払えない」と拒否。労働者側との対立は激しくなり、警察も介入するようになった。仲裁に入ったモンチャイ僧侶は「一度落ち着いてから権利を主張しよう」と訴え、未払い額を工場側に払ってもらえるよう、タイ政府も巻き込んで交渉しているところだ。
モンチャイ僧侶はまた、出稼ぎ労働者に仕事も紹介している。職に就けない出稼ぎ労働者から相談を受けると、工場のオーナーに何か仕事がないかと直接聞きに行き、これまで2000人に仕事をあっ旋した。
モンチャイ僧侶は2013年、境内に学習センターもつくった。学習センターでは週5日、幼稚園から小学生までの児童が学ぶ。授業はすべてミャンマー語。教科は、ミャンマー語、英語、算数、理科、情操教育、歴史など。ミャンマーの学校と同じ内容だ。ミャンマー政府公認のため、ミャンマーに戻っても中学校への進学試験が受けられるという。
この学習センターへ子どもを入れたい出稼ぎ労働者は年々増えている。児童の数は2013年の128人から2018年は483人へとおよそ4倍になった。
学習センターでは、多くの教師はもともと出稼ぎ労働者としてきたミャンマー人たち。年に1度ミャンマーへ帰り、ミャンマーのカリキュラムの研修を受けている。モン・チャイ僧侶は言う。「教育は資産。より良い未来のために必要だ」