【国境の街メーソットで生きる(1)】サッカーでミャンマーの民族対立をなくす! NGOプレイオンサイドの挑戦

移民学習センターで学ぶ子どもたちとサッカーコーチのジンミンナインさん(左から3人目)。タイ・メーソットで撮影

タイ・バンコクから北西に500キロメートル、ミャンマーとの国境にある街メーソットにサッカーを使って民族対立を防ぐNGO「プレイオンサイド」がある。ここでサッカーコーチとして働くミャンマー人ジンミンナインさん(23)は「カレン族やシャン族など、さまざまな民族で構成されたチームでサッカーをすることで、異なる民族の友だちができる。他の民族への偏見をなくしたい」と話す。タイに渡ったミャンマー移民に焦点を当てる連載「国境の街メーソットで生きる」を2回にわたってお届けする。

■56チームのサッカーリーグ!

プレイオンサイドは、スペイン人のハビエル・アルマグロさんらが2013年に立ち上げたスポーツNGO。ミャンマーから逃れてきた難民・移民の子どもたちに、サッカーを通じて男女平等やリーダーシップといったライフスキルを教える。

チームは、難民・移民のためにメーソットで運営されている移民学習センターをベースに作る。現在は、移民学習センター19校から計56チーム、650人以上の子どもがプレイオンサイド主催の試合に参加する。雨季リーグ(7〜9月)と乾季リーグ(10〜1月。「ミンガラバ・メーソッティー」と呼ばれる)の年2つのリーグ戦があり、総試合数は900試合以上に及ぶ。

プレイオンサイドのフルタイムスタッフであるジンさんは、移民学習センターのひとつ「こども発育センター」で平日の午後、サッカーの指導をする。センター内のチームは、性別、年齢で分けられており、計6チーム120人が放課後、サッカーの練習に参加する。

ジンさんが目指すのは、違った民族同士の子どもたちが仲良くなること。移民学習センターではカレン、シャン、モン、ラカイン(アラカン)などさまざまな民族の子どもたちが学ぶ。ここをベースにチームを作り、練習、試合をすることで、自分の民族と違う子どもたちとも深くつきあうことになる。定期的に別の学習センターの子どもと試合することで友だちも増え、世界も広がっていく。

ジンさんが指導するこども発育センターの生徒のひとり、ソロモンくん(14)は「別の学習センターの友だちに毎週会えるのが嬉しい」とサッカーをする理由を語る。

■ビルマ族だと言えない

ジンさんはビルマ族の父とシャン族の母の間に生まれた。ミャンマー第2の都市マンダレーで幼少期を過ごした後、15歳の時(2010年)に母が働いていたメーソットに移り住み、こども発育センターで学び始めた。

ビルマ族との争いが絶えなかったカレン族やシャン族、モン族の子どもたちと一緒に学ぶ生活。メーソットに来た当初は、自分の血の半分がビルマ族であることを友だちに打ち明けられずにいた。

大きな転機となったのが2年後の2012年。英語の教師として、こども発育センターにやってきたスペイン人ハビエルさんとの出会いだ。権威的なミャンマー人の先生と違い、生徒や先生、さまざまな民族の子どもたち、誰とでも分け隔てなく接するハビエルさん。彼を見てジンさんは、ビルマ族という自分のルーツを友だちに打ち明ける勇気をもったという。

ジンさんはこども発育センターを卒業後、ミャンマー移民に無料で医療を提供するメータオ病院の職員や、母校のこども発育センターの職員兼英語教師の仕事を経て、2015年、プレイオンサイドの正職員になった。

現在はコーチの仕事のほか、2つのリーグの企画・運営、4〜5月にはミャンマーの村を訪問して、サッカーや英語を教えるなど忙しい日々を送る。ジンさんをはじめとするプレイオンサイドスタッフの地域に根ざした地道な活動が評価され、プレイオンサイドは2019年、国際サッカー連盟(FIFA)の「年間多様性大賞」にノミネートされた。

■ビルマ軍に村を焼かれた

ミャンマーは1947年の独立以降、ビルマ族を中心とする政府軍と、各民族がもつ軍隊の間で内戦が繰り広げられてきた。1988年を機に、政府軍と一部の民族の軍隊同士で停戦合意が進むが、政治的解決には至らない。不満をもつ軍の一部が内部で反乱を起こすなどして、軍は分裂と編成を繰り返している。

特にミャンマー東部のカチン州、シャン州、カヤー州、カレン(カイン)州には民族軍や武装グループが乱立する。その不安定さから麻薬売買や違法伐採、人身売買など違法行為が蔓延している。ジンさんは「ミャンマー政府も各民族の軍部も権力を求めて争う。被害を受けるのはいつも貧しい人たちだ」と嘆く。

民族紛争から逃れて、難民キャンプに移り住んだ子どもたちは他民族に対する憎しみが強い。「ビルマ(政府)軍に村を焼かれた。ビルマ族のことが大嫌いだ」という生徒に対して、ジンさんはあえて自分のルーツの半分はビルマ族だと告げる。生徒と日々分け隔てなくかかわり、信頼関係を築いているジンさんが言うからこそ、生徒たちは「すべてのビルマ族が悪いわけではない」と思い直し、民族というフレームでの考え方を改めるという。

「私は、政府軍も、どこの民族軍も支持しない。そんなことより、目の前で苦しむ多くの子どもを一人でも助けたい」。ジンさんはこう力強く語る。

子どもたちと笑顔で話すジンさん(タイ・メーソット)

子どもたちと笑顔で話すジンさん(タイ・メーソット)

タナカ(タナカという木の皮を原料にしたミャンマーの伝統的美容品)を顔に塗ったミャンマー移民の女の子たち

タナカ(タナカという木の皮を原料にしたミャンマーの伝統的美容品)を顔に塗ったミャンマー移民の女の子たち(タイ・メーソット)