日本ユニセフ協会は8月22日、2013年11月にフィリピン中部を襲った大型台風30号(ハイエン)の緊急援助の成果をまとめた報告会「復興への道のりを支えて-台風30号から9カ月」を都内で開いた。発表者は前国連児童基金(UNICEF)フィリピン教育専門官の井本直歩子氏。同氏は13年12月~14年7月にレイテ島タクロバン事務所に派遣され、学校の再建に力を注いだ。
■「たくさんの簡易な校舎」を優先
ハイエンは死者6000人以上、被災者およそ1410万人に達するなど、フィリピン史に残る大参事となった。レイテ島を中心とする被災地にもともと建っていた学校はつくりが頑丈でなかったこともあり、多くの校舎が倒壊・半壊した。
緊急援助としてUNICEFは、倒れたココナツの木を資材に仮設教室を建てたり、屋根を修復していく。子どもたちはその間、テントの教室で勉強した。こうしたなか、UNICEF内部で幾度も議論になったのが、学校の「量」を重視して簡易な校舎をたくさん作るか、「質」を求めて頑丈な学校を少量作るかだ。援助資金には限りがある。厳しい選択を迫られた。
井本氏は「UNICEFは緊急援助を提供し、また同時に子どもの権利も守る機関。だから量を重視した。緊急援助が完了したら、国際協力機構(JICA)などに頑丈な学校づくりをお願いしたい」と述べた。
井本氏はまた、援助の効率についても言及。ハイエンの被災地には世界中から多くの援助、物資が集まった。援助が重複しては無駄になるだけに、援助をいかに効率よく分配するかという課題もあったという。
■学校の半数が1カ月後に再開
国連機関は2006年、人道支援改革の一環として「クラスター制度」を導入した。これは、緊急援助の申し出を受けた国際機関やNGO、各国政府が、同じような支援をしないよう調整するものだ。
この制度では教育、保健、衛生、水、ロジスティクスなど11のクラスター(分野)が存在する。各クラスターでは仕切り役を務める機関(リード・エージェンシー)が決まっている。UNICEFは通常、教育、水、栄養セクターのリード・エージェンシーを務める。
学校の再建を例にとると、UNICEFが現地政府とコンタクトをとり、支援のニーズを把握。情報をとりまとめ、無駄や重複がないよう、援助機関を調整する。
こうした努力のかいもあって、ハイエンの場合、上陸から1カ月後の13年12月初めには、被災した学校の半数近くを再建できた。「他の途上国と比べて、フィリピンは復興が早くて驚いた」と井本氏。その理由は「地域コミュニティやPTAがうまく機能し、協力しあう自助努力の効果が大きかった」と説明する。学校や自治体は現在、防災教育や防災トレーニングを積極的に取り入れ始めているという。
■ユニセフ協会に11億円の緊急募金
UNICEFは、校舎の再建と併せて、子どもたちの心のケアにも努めた。ケアのノウハウを書いた紙を教師に渡したり、おもちゃやスポーツ用具を詰めたレクリエーションキットを配ったりした。「ショックを受けた子どもの気持ちはすぐに勉強に向かわない。まずは元気になってもらわないと」と井本氏は言う。
フィリピンには毎年40程度の台風が到来する。このうち甚大な被害を及ぼすのは7~8つ。地球温暖化と相まって大型台風の発生が増えると見込まれるなか、援助の「量」と「質」どちらを優先すべきかは、援助機関にとってはますます大きな悩みとなりそうだ。
ハイエンの被災地に対してUNICEFの教育セクターが援助した実績は、教材配布(50万人)、仮設教室の提供(裨益者数21万人)、机・椅子の配布(2万4000人)、子どもの保護を目的とするチャイルド・フレンドリー・スペースの提供(裨益者数4万人)など。日本ユニセフ協会には被災直後からこれまでに11億1920万8970円の緊急募金が集まった。(吉田沙紀)