開店前から大行列。午前11時半のオープンと同時に客がなだれ込む。ここは、およそ10万人が暮らすタイ・バンコク最大のスラム「クロントイ・スラム」にあるリサイクルショップ「セカンド・チャンス・バンコク(SCB)」だ。SCBは、1日100キログラムほど寄付される古着を、激安でスラムの住民に売る。住民はそれを仕入れ、5倍の値段で路上などで販売し、生計を立てる。
■1枚わずか70円
SCBが売る古着のシャツは1枚20バーツ(約70円)。あまりの安さゆえに、スラムの住民にとってSCBは“仕入れ先”となっている。そこで買った古着は、自分で使うのではなく、商品として売って稼ぐのだ。
スラム住民らが路上で売る値段は1枚90~100バーツ(320円~350円)。仕入れ値の5倍の値段がつくため、シャツ1枚当たりの利益は約70バーツ(250円)。5枚売れば、バンコクの1日の最低賃金325バーツ(約1162円)を上回る。
SCBのゼネラルマネジャーのハチャヤトコプロークさん(41)は「お金をただあげても、スラムの人たちを無力にしてしまうだけ。尊厳をもって一日一日を、彼ら自身で歩んでいってほしい。SCBはスラムの人たちが自らの力で生計を立て、暮らしていけるよう古着を格安で売っている」と説明する。
SCB には1日約100キログラムの衣類の山が寄付される。シャツだけでなく、ジーパンや靴もある。SCBの専用車は日曜と月曜を除く週5日間、バンコク市内を周って古着を回収する。
古着の回収は1日5回。1回につき10~20キログラムの衣類を運ぶ。古着があるから取りに来てほしいという依頼メールは、SCBのホームページを通して1日10~20件届く。
リサイクルショップで売れ残った古着は、SCBが手がけるアップサイクル(元の商品よりも価値が上がるようにリサイクルすること)プロジェクトに使ったり、スラムの中でも特に貧しい人たちに無料で配ったりする。
■売り上げ36万円
リサイクルショップが営業するのは日曜と月曜を除く週5日間。その賑わいは開店前から、店の前に行列ができるほど。開店と同時に客たちは店になだれ込み、無秩序に山積みされた衣類を手に取る。その光景はまるで日本のバーゲンセールのようだ。
店内に並ぶのは無数の古着シャツのほか、ジーパン、靴、バッグ、食器、おもちゃ、パソコン、冷蔵庫、エアコンなどいろいろ。衣類コーナーには女性が、おもちゃや電化製品のコーナーには男性が群がる。
リサイクルショップの1カ月の売り上げは、繁忙期で10万バーツ(約36万円)、閑散期で5万バーツ(約18万円)ほど。これがSCBの活動資金になる。
電化製品を含む、すべての商品は寄付によるもの。大半は、タイに住む駐在員など外国人が母国に帰るとき、置いていく物だ。特にオーストラリア、カナダ、イギリス、フィリピン、日本人から集まるという。
ハチャヤトコプロークさんは「寄付の99%が外国人から届く。私たちの活動をもっとタイ人にも知ってほしい」と語る。ちなみに彼女のこの日のコーディネートは、SCBのロゴTシャツに、古着のジーパン。アップサイクルで古着のジーパンと浴衣から作ったリュックサックでオシャレに決めていた。