西アフリカ・セネガルの首都ダカールから南東へ約500キロメートルのところにある村で、色鮮やかなアフリカ布(ワックス、パーニュと呼ばれる)の切れ端などを使ったポーチやバッグ作りを進める日本人がいる。青年海外協力隊OGの田賀朋子さん(30)だ。「服を仕立てた後の切れ端が村中にたくさん捨てられていた。もったいないと思った」。“ごみ”に新たな命を吹き込んだ商品を「jam tun(ジャムタン)」ブランドと名付け、田賀さんは日本に売り込む。
■大量のごみにショック
人口1万2000人のシンチューマレム村に、青年海外協力隊員(職種:コミュニティ開発)として田賀さんが派遣されたのは2014年9月~2016年9月。現地でとれる土や家畜のふんを固めた「改良かまど」や稲作の普及などをしていく中で気になったのが、村に散乱していた大量のごみだった。とりわけ目立ったのはワックスの切れ端と、飲み水のパックとして使われるビニールだ。
セネガルには自分で好きな布を買い、それを仕立屋に持っていき、オーダーメイドで服を作る文化がある。服を作るプロセスで余った切れ端が路上にたくさん捨てられるのを目にした田賀さんは、切れ端を何かに生かせるのではないかと思ったという。
飲み水のパックにも目を付けた。村人は毎日いくつものパックの水を飲み、空になったらポイ捨てする。
見るに見かねて田賀さんは、村の仕立屋にワックスとビニールパックのごみを組み合わせたポーチとバッグを作ってみようと提案した。協力してくれる仕立屋を探すために村を練り歩き、何十人と声をかけた。その結果、4~5人が手を貸してくれることになった。
「布を細く切って編み物のようにしたり、切れ端とビニールをパッチワークにしたり、と試行錯誤を繰り返した。最終的に、布の切れ端をつなぎ合わせ(ポーチやバッグの外側)、ビニールを貼り合わせる(内側)今の商品にたどり着いた」(田賀さん)
ごみを減らそうと啓発するために作ったポーチとバッグ。だが村人の間で次第に評判となり、買いたい人が出てきた。
そこで田賀さんは仕立屋と購入希望者を仲介した。値段は、ポーチ550CFA(セーファー)フラン(約100円)、バッグ1600CFAフラン(約300円)。日本へ帰国するまでの2年間で100個以上を作った。1つのポーチを作るのに4~8枚の切れ端と2~8個のビニールパックが必要だ。
ごみに対する村人の意識も変わった。ごみとなった飲み水のビニールパックを回収する箱を置く店も出てきた。路上に捨ててあったパックを拾い、仕立屋に持っていく子どももいたという。
日本に帰国してから1年後に村に戻った田賀さんは、回収箱がまだ残っていることに驚いた。思わず「嬉しい」と口にした。
■帰国して終わりじゃない
日本に帰って仕事をしていた田賀さんは2017年4月、シンチューマレム村で作ったポーチやバッグのブランド、ジャムタンを立ち上げた。日本市場で本格的に売るためだ。
ジャムタンとは、シンチューマレム村で話されるプラ―ル語で「平和しかないよ!」という意味。「紛争や貧困といったネガティブなアフリカのイメージではなく、笑顔と活気にあふれたアフリカを知ってほしいという思いを込めた」と田賀さんは話す。
田賀さんは現在、岡山県にある町おこしの会社で観光・まちづくりのアルバイトをしながら、各地のイベントに月に数回出展。ジャムタンの商品を売る。これ以外に、岡山県のフェアトレード専門店や浜田市世界こども美術館などにも商品を置かせてもらっている。「今は地元・岡山での販売が中心。だが今後はネットで注文できるシステムも整えたい」と田賀さんは意欲を見せる。
セネガル側の生産体制を強化するために10月10日からクラウドファンディングを始めた。第1目標の120万円はスタートしてわずか10日で達成。ミシン7台の購入と作業スペースの整備に使う。
現在は第2目標の270万円に挑戦中だ。期限は11月27日まで。クリアできれば、未経験の若者を仕立屋として育成するための費用と新商品の開発費に充てる。
■世界でたったひとつだけ
ワックスの切れ端から作る商品には、ポーチやトートバッグをはじめ、鍋つかみ、洋服などがある。その日に手に入った切れ端を仕立屋がデザインするため、商品はすべて一点ものだ。
日本で一番人気はポーチ。女性が化粧品を入れる目的で購入することが多いという。裏側にはビニールが使われているので、防水性も抜群だ。値段は1300~1800円。
二番人気のトートバッグは、リバーシブルのデザインが特徴。「裏側の糸の処理を考えたとき、もう一枚布を重ねれば違うデザインで使えると思いついた」と田賀さん。値段は3800円。
ワックスの切れ端を使った商品以外では、新品の布から作ったワンピースやスカートも6000~9800円で売る。柄やデザインを指定するオーダーメイドも可能だ。
田賀さんによると、ジャムタンの商品を作るシンチューマレム村の仕立屋にとって、日本人から支持されることは大きなモチベーションにつながるという。「日本人のお客さんが商品を使っている写真をセネガルに送ると、みんなとても喜ぶ。自分の技術が認められていると嬉しいようだ」
田賀さんは11月下旬から再びシンチューマレム村へ飛ぶ。商品の質の向上や新人の育成、新商品の開発などに取り組む予定だ。