コロンビア第2の都市メデジンに、160万人のフォロワーをもつベネズエラ難民のユーチューバーがいる。ベネズエラ東部のバレンシアで生まれ育ったカルロス・ポベダさんだ。ハイパーインフレに見舞われるベネズエラを脱し、メデジンに来て仕事を探していたところ、英国に住む有名ユーチューバーが投稿する動画のスペイン語版を制作する職を得た。“サラリーマン・ユーチューバー”に転身して約2年、月収はベネズエラにいたころの10倍以上に増えた。
■マンションを買う!
ポベダさんが自分のチャンネルで発信する動画は、なぞなぞや世界の知られざる事実の紹介など多岐にわたる。なかでも、「命の危機が訪れた時どうする? サバイバルなぞなぞ」はダントツの人気だ。再生回数はこれまでに最も多い1400万回以上を数えた。
動画は毎日投稿する。コンテンツはすべて、英国人ユーチューバーに提供してもらう。動画コンテンツを共有するファイルがあり、そこには英国人が作った動画がストックされている。ポベダさんは、自分の興味のある動画を選んで、スペイン語に吹き替える。
コンテンツの内容を自分から提案することも可能だ。ゲームがもともと好きだったポベダさんは、大人気のゲーム「フォートナイト」の実況動画を発信したら面白いのではないか、と考えた。英国人ユーチューバーはそのアイデアに賛同し、英語版のゲーム実況の動画を配信。ポベダさんはすぐにスペイン語版を制作した。
ところが結果は最悪。再生回数は、想像をはるかに下回る20万回となった。英国人ユーチューバーからは「やっぱりだめだったね」と言われたが、ポベダさんは「この動画は絶対ヒットする」と自信をもっていた。頼み込んでゲーム実況動画を配信し続けた結果、みるみるうちに再生回数は上昇。結果的に、当初の20倍の400万回を記録した。
ユーチューバーとして活動を続けて約2年。現在の月収は、ベネズエラで翻訳の仕事をしていた時と比べ、約10倍に増えた。収入が安定してから貯金し始め、2019年中に貯めたお金でベットルームが3つあるマンションを買う予定だ。ベネズエラに住む両親と一緒に住むためだ。
■偶然が奇跡を呼ぶ
ユーチューバーの仕事と出あったのは偶然だった。求人サイトで、英国に住む400万人のフォロワーをもつユーチューバーの、スペイン語版動画を制作する仕事を見つけた。動画の編集をもともと趣味としていたことから、即座に応募した。多数の応募者がいる中で、それまでの翻訳経験と、趣味でやっていたボイストレーニングで鍛えた声が評価され、ユーチューバーの仕事を得た。
採用がわかった瞬間の心境についてポベダさんは「経験があったからなんとなく自信はあった。でも実際に社長から採用の連絡が来た時は、部屋中を飛びまわって喜んだよ! 自分の大好きなことで仕事ができるなんて最高だと思ったね」と振り返る。
そんなポベダさんは、「動画で最も気を使うことは声だ」と語る。彼の動画は顔を出さない。その代わりに声がウリだ。ユーチューバーになった当初は、大げさで喉を痛めるような話し方で吹き替えをしていた。しばらく経つと、視聴者から「いい声だね」「なんだ、その声は」と賛否両論のコメントが寄せられることに気づく。
1年ぐらい前のことだ。たまたま不機嫌だったポベダさんは面倒だったので、いつもより大げさでない話し方をして動画を投稿した。すると、声に対する評価が劇的に上がった。同時に視聴者からのネガティブなコメントもほぼなくなったという。
「話し方を変えるだけで、こんなに動画の評価が変わるとは思わなかったよ。それからは、声の出し方や話し方をかなり意識するようになったね」とポベダさんは話す。
■コピー疑惑ですべて失う
しかし、そんなユーチューバー活動にも紆余曲折があった。投稿し始めて約1年が経ったとき、自分のチャンネルがユーチューブ側から「コンテンツはコピーではないか」と指摘される。収益化するための条件であるチャンネル登録者1000人と総視聴時間4000時間を優に超えていたにもかかわらず、お金は入ってこなかった。
悩みに悩んだ結果、投稿した動画をすべて削除した。トータルの再生回数は8800万回だった。
「チャンネルを失ったときは、絶望なんてもんじゃなかったよ。それからは、まず英語版で人気を集めた動画を積極的に投稿して、ひたすら登録者を増やす努力をした。動画のクオリティもだんだん上がってきたおかげで、今ではその時とは比べものにならないくらいの登録者数を得た。本当に嬉しい!」(ポベダさん)
現在の登録者数は160万人だ。「再生回数は、本家とほぼ同じくらいまで増えた。僕も彼みたいにチャンネルの登録者数をもっと増やして、継続的に人気を集められるようにしていきたい。いずれは簡単な仕事は委託して、自分は動画のマネジメントと声のトレーニングに専念していきたい」と将来を見据える。