おしゃれなかばんやペンケースなどの雑貨を作って売る店「チュチュ(ChuChu)」が、ミャンマー・ヤンゴンのなかでも貧しい人が集まるダラ地区にある。雑貨の材料となるのはプラスチックごみや使用済みのタイヤのチューブなど。こうしたごみを買い取る活動を、チュチュはオープン当初の2014年から手がけてきた。
■ごみで3500円稼ぐ
かばん、ペンケース、サンダル。ハイセンスなこれらの商品はいずれも、使用済みのタイヤのチューブやプラスチックごみをアップサイクル(元の製品よりも価値の高いものを生み出すこと)したものだ。
チュチュの工房で働くチン州出身のカンチンパウさん(25)によると、チュチュが1カ月に買い取るチューブは、自転車用が約300個、自動車用が約180個にのぼる。「集めたチューブは店の倉庫にためているよ。使い古しの米袋に入れてね」とカンチンパウさんは話す。
買い取り価格は、自転車のチューブ1つが200チャット(約14円)。車のチューブは、トラック用の大きなサイズが1500チャット(約105円)、中ぐらいのサイズで1300チャット(約90円)、普通車の小さいサイズだと1000チャット(約70円)。車のチューブの主な購入元は、ヤンゴンにある自動車修理工場や洗車ショップだ。
チュチュが買い取るのはチューブだけではない。菓子を食べた後に残ったごみ袋も対象になる。価格は、大きいサイズで1つ50チャット(約3円)、小さいサイズは20チャット(約1円)。
ごみの買い取りは、ダラ地区の住民にとって、収入源のひとつになっている。「毎月必ず一度はごみを持ってくる人がいる。その人は一番多いとき、カートいっぱいにペットボトルやチューブを乗せてきて、1回で5万チャット(約3500円)を稼いだよ」(カンチンパウさん)
ミャンマーの1日の最低賃金は4800チャット(約336円)。最低賃金の10日分以上のお金を、ごみを集めるだけで手に入れる住民がいる。
■喜んでごみを拾う
経済発展と人口増加を背景に、ヤンゴンではごみ問題が深刻化している。その象徴のひとつがごみのポイ捨て。チュチュがごみの買い取りを始めてから、ダラ地区の人たちは積極的にごみを拾うようになったという。
チュチュを立ち上げたとき、店のオーナーのウェンディさんは、外で遊ぶ子どもたちにこう言った。
「みんな、ごみを拾って店に持ってきて。そしたらお小遣いをあげるわよ!」
すると子どもたちは喜んでごみを拾い、持ってくるようになった。「チュチュにごみ持っていくとお金がもらえる」と、まずは子どもたちの間で口コミで広がり、子どもの家族もごみを拾うようになった。
こうした活動が奏功し、ダラ地区の路上にポイ捨てされたごみは減ってきたという。カンチンパウさんは「(ミャンマー北西部の)チン州から、2018年に初めてヤンゴンに来た時、めちゃくちゃ汚いと思ったよ。僕の故郷のチン州は田舎できれいだったから。でもダラ地区の人はごみを徐々に拾うようになったし、ポイ捨てもやめた。少しずつきれいになっているよ」。
■月収は1万1200円
チュチュの活動の効果は、ごみを減らすだけではない。貧しい人を雇うことだ。工房で働くのは全部で11人。朝8時から夕方6時までリサイクル雑貨を作り続ける。
工房での作業は多岐にわたる。集めたごみをゴシゴシ洗い、乾かし、型にあわせてはさみでカットし、ミシンで縫っていく。“ごみ”から作るだけに手間ひまもかかる。
チュチュの工房で働き始めて2年。カンチンパウさんがいま主に作るのは「女性用のサンダル」だ。1カ月の収入はおよそ16万チャット(約1万1200円)にのぼる。
給料体系は、“生活の保障”と“やる気を引き出すこと”を意識して組み合わせたものとなっている。カンチンパウさんの場合、1カ月の基本給として13万チャット(約9100円)。プラスのインセンティブとしてスリッパを1つ作るごとに2500チャット(約175円)もらえる。
チュチュは、工房のすぐ隣にオーナーの家がある。スタッフはこのため住み込みで働けるという。朝、昼、晩の食事が無料で付き、家賃もかからない。「生活は十分できる」とカンチンパウさんは話す。
カンチンパウさんは、実はかつて、チューブからかばんを作っていた。いまより少し収入が多かったが、サンダルに変えた。
「かばんは女性が作るイメージがある。男性用のサンダルを作りたかったけど、男はファッションに興味がなくて10個しか売れなかった。だから女性用のサンダルを作り始めたけど、全然うまくいかない」と苦笑いする。
カンチンパウさんはチン州にいたところ、ホテルのレストランのウェイターになりたかった。ところが授業料を払えず、学校へ通えなかった。お金を貯めようと2018年から働き始めたのがチュチュだ。
「僕の友だちがチュチュでたまたま働いていた。彼が中国へ出稼ぎに行くことになって、その代わりとして僕が入れてもらった。でもいまはずっとここで働きたい。環境に良いこともしているしね」