【アフリカを襲う新型コロナ(1)】感染より飢えで死ぬ! 都市封鎖でケニアのスラムは救えるのか

家々が密集するケニア・ナイロビのキベラスラム。3密は避けられない

新型コロナウイルスの感染拡大を懸念して、ケニア政府は4月上旬、ナイロビ首都圏と港町モンバサとその近郊を封鎖(ロックダウン)した。それにより経済活動はストップ。インフォーマルセクターで働く数多くのスラム住民が仕事を失った。ナイロビでNGOを運営するケネディー・オデデさんはCNNの取材に「スラムの人たちは新型コロナのことなんて気にしていない。空腹で死んでしまうことを心配している」と語る。

■食料配給中に2人が死亡

われ先にと食料に殺到する数千もの人たち。将棋倒しで意識を失い運ばれる女性。棒切れで殴打する男たち。催涙ガスを放つ警官。

これは4月10日、ナイロビ最大のスラム、キベラスラムで慈善団体が食料を配給したときのようすだ。飢えに苦しむ住民は広場の入り口に殺到した。キベラスラムに住むエブリン・ケムントさんはアフリカのニュース専門放送局「アフリカニュース」の取材にこう答える。

「女性を含め多くの人がけがをした。子どもも迷子になったままだ。私たちはただ食料を取りに来ただけ。このままではお腹が空いて死んでしまう」

この混乱で2人が死亡。2日後、ケニア政府は許可のない食料配給を全面的に禁止した。

■都市封鎖=失業=食料なし

アフリカ諸国の都市封鎖について、安全対策の専門家は疑問を投げかける。南アフリカ共和国のプレトリアにある安全保障研究所のジャッキー・シリアーさんは「アフリカでは都市封鎖しても、それに耐えられる経済的な体力はない。感染も制御できない」と語る。なぜならアフリカは先進国と違い、その日暮らしの人が多いからだ。

ケニアでは労働者の83.6%がインフォーマルセクターで働く。そのほとんどが1日数ドル(数百円)で生活する。貯金はほぼゼロ。都市封鎖の実施は、失業、ひいては「飢え」に直結する。

キベラスラムに住むジェラード・オグトさんも仕事を失ったひとりだ。景気の急速な冷え込みから、日雇いで働いていた家具工場をクビになった。ケニアの労働法は、インフォーマルな労働者を保護しない。「収入が2週間ないよ」とオグトさんはアルジャジーラの取材に答える。

貧しい住民を救いたくても、ケニア政府に経済的な余裕はない。前年の税収は目標に届かず、それを補うため公債を発行。2019年7月には6兆シリング(約6兆円)を超えた。これはケニアの国内総生産(GDP)の65%に相当する。

それに追い討ちをかけるようにコロナ危機が発生。主要産業である観光業や切り花の輸出が大打撃を受ける。税収が2020年も減ることは必至だ。

ケニア景気研究所のクワメ・オウィノ主任は「ここにきて景気はどんどん悪くなっている。これ以上は耐えられない」と嘆く。

■祈るしかない

都市封鎖が新型コロナの感染拡大の防止に効果があるかどうかも疑問だ。キベラスラムは2.5キロメートル四方に25万人が暮らすといわれる。10平方メートル(日本のワンルームマンションのおよそ半分の広さ)の家に7人が住むこともざらだ。「人と人との間は2メートルに」(社会的距離=ソーシャルディスタンス)という世界の合言葉はキベラスラムでは通用しない。

公衆衛生も悲惨だ。家はブリキでできた掘っ立て小屋。家の中で地面が露出する。ごみはいたるところに散乱し、所々で異臭が立ち込める。トイレは家にないため、50世帯でひとつのトイレをシェアする。ほとんどのトイレに手を洗う設備はない。

人々が密集し、手洗い・うがいといった予防策も打てない。キベラスラムは今、八方塞がりだ。

ケニアのムタヒ・カグウェ保健相は「私たちは祈り、そしてベストを尽くす。しかし同時に、どうにもならない状況になる可能性があることも覚悟しなければならない」と苦悩をにじませる。