新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、ケニアのNGO「Shining Hope for Community(SHOFCO)」が、首都ナイロビのキベラスラムやマザレスラムなどで感染を予防する活動を始めた。スラムの出入り口に手洗い場を設置したり、住民の家を訪問して手洗いをする必要性を伝えたりする。SHOFCOはかねてからケニア全土にある11カ所のスラムで活動してきたため、13万9000人以上のスラム住民とのネットワークをもつ。同団体の創設者で、自身もキベラスラム出身のケネディー・オデデさんは「みんなが協力すれば、(新型コロナの感染予防に)大きなインパクトを与えられる」と力強く語る。
■手洗い場を使うのは76万2000 人!
2004年に立ち上がったSHOFCOは、スラムの住民に密着して活動するNGO。スラムの貧困とジェンダーの不平等を解消することを目標に掲げる。
SHOFCOのこだわりは、スラム住民のオーナーシップを高め、住民の手でプロジェクトを進めるところ。SHOFCOには「SHOFCO Urban Network(SUN)」と呼ばれるスラム住民が所属するグループがある。SUNのメンバーが中心となり、トイレを設置したり、HIV陽性者をエンパワーメントしたりしていく。
SUNの主要メンバーは1万5000人以上。これに加えてSHOFCOのプロジェクトに協力する住民は13万9000人以上いる。これはケニアのNGOがもつネットワークの中でも最大規模だ。
このネットワークを利用して、SHOFCOが新型コロナ対策として進めるのが、それぞれのスラムの出入り口に手洗い場を設置すること。スラムの中に新型コロナを持ち込ませないための作戦だ。手洗い場の脇には数人のボランティアが常駐し、スラムに出入りする住民に手の洗い方を説明する。
SHOFCOがこれまでに設置した手洗い場の数は計142カ所。76万2000 人以上の住民が手洗い場を使った計算になる。ボランティアのひとり、エリザベスさんは「スラムの住民らはいま、コロナがうそでないことを実感し始めた。手洗いが少しずつ習慣になってきている」と語る。
SHOFCOはまた、新型コロナの最新情報をスラムの住民に伝える。SUNのメンバーらは定期的にミーティングを開き、感染したときに出る症状や効果のある予防策などの情報をアップデート。それを手洗い場やSHOFCOが運営するコミュニティーセンターなどでスラムの住民に共有する。いまでは手洗い場で住民同士が距離をとって並ぶようになった。
誤った情報やうわさも修正する。オデデさんは「『アフリカ人は新型コロナの抗体をもっているから感染しない』というデマが以前流れた。そのときもネットワークを通じて修正し、予防の大切さを伝えたよ」と語る。
手洗い場やコミュニティーセンターでつながらない人のために、SHOFCOのメンバーは各家庭も訪問する。スラムにはインターネット環境がない人も多い。また明確な住所もない。キベラだけでも50万人以上が住むといわれるスラム。そのすべての人にアクセスすることは難しい。
SHOFCOは巨大なネットワークを駆使して、“隠れた人”にもアプローチする。家に行って石けんや消毒液などを配る。予防の仕方や新型コロナに感染した場合の症状についても教える。訪問した家は17万世帯を超えた。
■私たちはひとつ!
「スラムは知識が集まるところ、強みが集まるところ。すべての答えはスラムの中にある」(オデデさん)。SHOFCOの活動の原動力は、スラムの住民ひとりひとりがお互いに協力するという「コミュニティーの力」だ。
SHOFCOは2004年、幼稚園から8年生(中学2年生)までの女子校をキベラスラムに設立した。昼の給食を毎回準備するのは、女子生徒たちの母親だ。母親たちはお金を持っていなかったが、食事を作るという彼女たちにできる協力を学校に提供した。
スラムの住民がお互いに協力する相互扶助システムもある。SHOFCOは、共同でお金を積み立てる小グループを作った。住民たちは各自、わずかな所持金を持ち寄って、資金をプールする。このお金を子どもの学費や緊急の医療費に当てる。現在154のグループが稼働中だ。
こうした地道な活動により、SHOFCOは少しずつ住民から共感と協力を得られるようになった。SHOFCOは活動の規模を拡大させ、いまや、学校や診療所、コミュニティーセンターをスラム内で運営するまでになった。また住民がきれいな水にアクセスできるよう、電線のように空中に配水パイプを張りめぐらせ、24カ所の給水所を設置した。
「私たちは、貧困からの脱却というミッションを共有している。私たちはひとつ。あすを夢見ている」(オデデさん)。だからスラム住民はみんな、SHOFCOの活動に主体的に協力する。このコミュニティーの力こそが、SHOFCO最大の武器だ。
迫り来る新型コロナの脅威についてオデデさんはこう語る。
「大切なことは、正確な情報をすぐに入手して、みんなで協力すること。そうすれば、隔離が必要な人をすぐに隔離させられるし、食料が必要な人には食料をすぐに届けることができる。このコミュニティーにはそれだけのネットワークと協力者がいる。いまこそ私たち自身がコミュニティーを守るときだ」