新型コロナウイルスの影響で、アフリカに食糧危機が迫っている。都市封鎖(ロックダウン)や自粛政策により国内の流通がストップしたことに加え、インドやベトナムといった穀倉大国が輸出を規制したことが大きな要因だ。世界経済フォーラム(WEF)は「食糧の輸出規制は世界不況を深める。各国は保護政策をやめ、国際的な協力と貿易を促進すべきだ」と警告する。
■6月には食糧が枯渇する?
アフリカ各国の食糧備蓄が少なくなっている。西アフリカのナイジェリアのムハメド・ナノノ農業相は「食糧確保は急務だ。政府はいま、3万8000トンの穀物しか備蓄してない。あと10万トン補充しないとまずい」とWEFに語った。同じく西アフリカのセネガルでは、コメの輸入量が30%も減った。備蓄は2カ月もたないという。
東アフリカのケニアでは、備蓄米がなくなった。理由は、食糧不足を恐れた市民が買い占めに走ったこと、政府が低所得者へコメを配ったことの2つだ。東アフリカ全体では現在、60万トンのコメが足りない。これは東アフリカの人口の半月分に当たる。
市場に出回る穀物が少なくなるにつれて物価も高騰し始めた。コメの値段がナイジェリアで8%、東アフリカのウガンダでは25%も上がった。
国連世界食糧計画(WFP)は、2020年6月までに西アフリカだけで食糧不足に直面する人が4000万人に達すると試算する。
■インドはコメ輸出をストップ
アフリカの食糧危機を引き起こす大きな原因のひとつが、アジア各国が実施する輸出規制だ。世界最大のコメ輸出国のインドは4月、コメの輸出を一時的に禁止した。世界3位のコメ輸出ベトナム、カンボジアもこれに追随する。
輸出の規制以外にも、世界規模で進む食糧備蓄がアフリカの食糧危機に拍車をかける。イラクでは危機対策委員会が、政府に対して小麦100万トン、コメ25万トンを買い付けるよう要請した。カタール政府も備蓄を増やすことを決めたとロイターは伝える。
世界貿易機関(WTO)はこうした各国の保護政策を批判。「こういった自国優先主義が認められるのであれば、流通は減り、物価は上昇し、世界経済は大きな打撃を受ける」と声を大にする。
WTOはまた、輸出規制が公式に発表されないことも危惧する。マスクや人口呼吸器などの医療品、コメや小麦などの食糧の輸出を制限している80カ国のうち、13カ国しかWTO に報告していない。アフリカのような備蓄の少ない国々にとって、輸出規制の情報の有無は死活問題となる。
G20(主要20カ国・地域)は3月30日、「ロックダウンや輸出規制といった緊急措置は、新型コロナの感染を止めるためにするもの。必要最低限で透明性があり、一時的なものでなければならない」と各国の輸出規制を牽制する声明を出した。
■ウガンダの食料自給率は日本以下
アフリカ諸国が世界の輸出規制に大きく影響される背景には、輸入に依存した食料事情がある。国連食糧農業期機関(FAO)によると、サブサハラ(サハラ以南の)アフリカ全体の食料の貿易赤字は9兆2340億ドル(約990兆円)。欧米全体の1兆2020億ドル(約129兆円)と比べて、いかに輸入に頼っているかがわかる。南アフリカ、ザンビア、カメルーンなどの数カ国を除きすべて赤字だ。
アフリカ全体の食料自給率(カロリーベース)は85%未満と、地域別でみると最も低い。ガーナ、ケニアはともに71%、ナイジェリアは58%、ウガンダはわずか32%だ。ちなみ日本は37%(2018年度)。
実は、世界の農作物の生産量は消費量を大きく上回っている。米国農業省の試算によると、2020年のコメと小麦の生産量は12億6000万トンに達するという。これは世界人口の77億人を食べさせるには十分な量。普通に消費しても4億7000万トン余るという。
国際開発農業基金(IFAD)西・中央アフリカ担当のジョン・ハーレイ主任は「世界各国は、貧しい国々や途上国の人たちが飢えに苦しむような政策をすべきではない」と主張する。