カンボジア北部の村で3人に1人の子どもが栄養不良、近所や祖母から誤情報「粉ミルクの代わりに練乳」

カンボジア北部のプレアビヒア州で、保健センタースタッフや村の保健ボランティアと協力してシェアが進める乳幼児健診のようす

カンボジアの北部プレアビヒア州で、子どもの約3人に1人が栄養不良に陥っている村がある。間違った情報や伝承による子育て、母親が学校に通えなかったことなどが原因だ。国際保健NGO「シェア=国際保健協力市民の会」の清モーガン三恵子カンボジア代表によると、栄養不良の子どもの割合が6割に上る村もある。カンボジア在住25年目のモーガンさんは現地で看護師として長年働いた経験を生かし、39の村の1100人の子どもを対象に「子どもの栄養改善1000日アプローチプロジェクト」を主導する。

■祖母にノーを言えない母親

子どもの栄養改善1000日アプローチプロジェクトの活動地は、カンボジアでも特に貧しいプレアビヒア州だ。州の2割ほどの広さを占める39の村では、子どもの栄養不良が大きな問題となっている。低体重の子ども(0~2歳児)の割合は3~4割ほど。多い時は6割に上る。これはカンボジア全体でも最悪の数字だ。

プロジェクトの対象になるのは、胎児期から2歳の誕生日を迎えるまでの「1000日間」にある子どもたちだ。脳や神経の発達、臓器の成長にとって大切な期間であるため、十分に栄養をとらなければ代謝機能や免疫機能の発達が見込めず、将来の生活習慣病につながる恐れがある。

モーガンさんは「子どもが栄養不良に陥るのにはいくつかの要因が複合的に絡み合っている。母親が間違った情報を信じてしまうこと、祖母(母親の実母)から引き継がれる育児方法にならってしまうことなどだ」と話す。

村では「粉ミルクではなく練乳を与えても大丈夫」「子どもが食べものを食べたがらないときは与えない方がよい」などの誤った情報がしばしば流れる。また、「母親の初乳は通常の母乳と違って白い色ではないため、乳児にとって良くない」と昔から考えられているケースもある。

カンボジアの村では、家庭内で祖母の権威が強い。このため「初乳には、新生児に必要な免疫成分や栄養素が含まれる」と母親が知っていたとしても、「初乳を絞り捨ててから母乳栄養を始めたほうが良い」と祖母が言えば、逆らえない母親もいる。

離乳食についても誤解されていることがある。「離乳食を食べさせるとお腹が張って子どもが痛がる」という噂を聞いたある母親は、子どもが6カ月になってもスープを薄めた汁だけを与えていた。これで栄養が足りるはずがない。

■母親が小学校中退か高卒か

こうした育児方法を母親が受け入れてしまう背景について、母親の教育レベルの低さと家庭内での母親の発言力の弱さがあるのではないか、とモーガンさんは指摘する。

カンボジアの人口・健康調査(保健省)では2014年、教育レベルの低い母親ほど子どもの栄養状態が悪いとの結果が出た。栄養状態が良い子どもの母親の多くは高校以上の教育を受けている。対照的に、栄養不良の子どもの母親は小学校さえ卒業していないことが少なくない。

モーガンさんは「教育を受けることで、自分の頭で考える力が身につく。与えられた情報をうのみにしないので、間違った情報を信じることが少なくなるのではないか」と推測する。

それ以外にも、村のセーフティネットの有無が子どもの栄養状態に与える影響は大きい。年に1度のコメの収穫を村全体で分け合ったり、保健センターが貧しい家庭の治療費を負担したりする村もある。だが助け合いが十分になければ、貧しい家庭は簡単に食料不足に陥り、病気になっても医療機関で治療を受けることはできない。

■離乳食のレシピも

母親の多くは、保健センターに行かないため、自分の子どもが栄養不良であるかどうかを知らない。モーガンさんは「保健センターに行くと注射を受けなければならないというイメージが強い。注射への恐怖心から、乳児健診をためらう母親も少なくない」と説明する。保健センターは村から遠く、交通費もかかる。

それならばとシェアが特に力を入れるのが、自ら村に出向く出張指導だ。地元の保健センターと協力して年に4回、39の村すべてを巡回する。健診で低体重だとわかった子どもの家庭には、栄養状態についてカウンセリングするだけでなく、離乳食の作り方を教えるワークショップにも来てもらう。

ワークショップで教えるのは「ジャスト・ワンタイム・クッキング」と呼ぶ、シェアが考案したオリジナルレシピだ。家族向けの食事と同時(一度)に作れる「取り分け離乳食」の方法。身近な材料でできるのが特徴だ。「簡単に栄養のある離乳食が作れる」と母親にも好評だという。

レシピは、カボチャのスープや地元で採れるアマランスの葉を加えた葉物のスープなど。いずれもカンボジアでよく作られる料理を工夫したものだ。

「食事指導は何度も繰り返してやるのが大事。子どもが食べないのを、子どもの食の細さや好き嫌いのせいだと思っていた母親が、ジャスト・ワンタイム・クッキングのレシピを作ると子どもが良く食べるようになったと喜んでいた」とモーガンさんは満面の笑みで語る。