「アフリカのダイヤモンド採掘者らが受ける暴力や性暴力も“一種の紛争”と考えれば、完全にコンフリクトフリー(紛争と無関係)のダイヤは世界にほぼ流通していない」。キンバリープロセス(KP)市民社会連合でグローバル・コーディネーターを務めるシャミソ・ムティシ氏はこのほど、NGOダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)主催のセミナーでこう語った。採掘者への暴行やレイプ、拷問、殺人の加害者は、民間の鉱山会社の警備員やアフリカ各国の政府が雇う軍人だという。
■採掘労働者の臓器を売る
ダイヤの購入者が、 暴行やレイプを含めた“コンフリクト・フリー”のダイヤの原石かどうかを見分けることは、現段階ではほぼ不可能だ。ムティシ氏は「キンバリープロセスの認証がついたダイヤと、採掘過程で人権侵害もない(本当の意味での)コンフリクト・フリーのダイヤはまったく違う」と明かす。
「『コンフリクト(紛争)』という言葉の意味が多様化してきた。昔は、紛争といえば単に、国同士の戦争や内戦だけを指していた。だが最近は、銃撃や殺害、拷問といった暴力、性的な嫌がらせやレイプ、虐待、搾取を含む性暴力などの人権侵害もコンフリクトに含むようになった」(ムティシ氏)
しかしキンバリープロセスの定義は狭いままだ。紛争ダイヤモンドではないかどうかは「ダイヤモンドの原石が、アフリカ各国の反政府組織が政府を倒す活動の資金に使われていないかどうか」という1点のみ。ダイヤ採掘労働者や採掘地域の近隣住民が人権侵害を受けているかどうかは、そもそも定義に含まれていない。
暴力や性暴力の被害者の多くは、ジンバブエ、タンザニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、アンゴラなどにある鉱山の採掘労働者だ。
ムティシ氏によると、ジンバブエ東部のマランゲ鉱山では2017年、民間の鉱山会社の警備員に拷問された採掘労働者の遺体が、鉱山周辺の草むらで腐敗した状態で見つかった。2013年と2016年には、タンザニア北部のシニャンガ州の住民が、マランゲ鉱山の場合と同じく民間の警備員から銃で撃たれ、右足の膝から下を切断したとの報告もある。
ダイヤモンド・フォー・ピースが監修した「ブラッド・ダイヤモンド~ダイヤモンドを巡るアンゴラの腐敗と苦悩~」(ラファエル・マルケス・デ・モライス著)によれば、民間の警備員(鉱山の警備を担当する警備会社)の狙いは、ダイヤ採掘の利益を半分以上奪うこと。手掘り採掘労働者に対して「お金をもっているのなら、拷問はマシにする」などと脅し、採掘地域に出入りするための料金を不正に請求するという。食料や休憩、賃金なしの労働を強要することも日常茶飯事だ。
民間の警備員らによる女性への性暴力も、アンゴラ北部のルンダノルテ州クアンゴ市では2009~2011年に70件以上が起きたことがわかっている。女性のほとんどの遺体が、舌や性器、指、目玉、内臓が取り除かれた状態で見つかった。
奇妙な性暴力の事件が続いた背景にあるのは、ダイヤモンドの仲買人が信じる迷信だ。クアンゴの仲買人らは「女性の臓器を取り出して呪術的な儀式をし、その臓器を売りさばくことで、ダイヤモンド取引で大きな利益を得られる」と迷信を信仰するのだという。
■禁輸措置で困るのは採掘者
クアンゴを含め、アフリカ各国にあるダイヤ鉱山の現状は不明だ。ムティシ氏は「人権侵害を受けるダイヤ採掘者や採掘地域で暮らす人たちの声を拾えていないことも、キンバリープロセスの課題のひとつ」と口にする。
「コンフリクト・フリーのダイヤ原石しか輸入しない」と宣言するオーストラリアやカナダなどの宝石会社でも、その原石が「人権侵害のないダイヤ」を指すかどうかはわかっていない。欧米で展開するジュエリーブランド「マイフェアダイヤモンド」は、コンフリクト・フリーの基準を独自で設けている。だが第3者機関の監査状況を確認できていないので、本当に人権侵害がないかどうかは不明だ。
ムティシ氏とともにイベントに登壇した、インターナショナル・ピース・インフォメーション・サービス(IPIS)のハンス・メルケト研究員は、キンバリープロセス認証制度が決めた「紛争ダイヤモンドの禁輸措置」にも限界があると指摘する。
「キンバリープロセス認証制度では、国単位で紛争ダイヤモンドの輸入を禁じている。だが一番困るのは、暴力や性暴力などの人権侵害を国や民間企業から受け続けてきたダイヤ採掘者、加工者、地域住民たち。その日の食料を求めて働いているので、ダイヤの輸入が禁止になれば、すぐに日々の生活に行き詰まる」(メルケト氏)