子どもの思考力を鍛える知育アプリ「Think!Think!(シンクシンク)」を、カンボジアの小学校(パソコンの授業)に導入しようと挑戦する日本の中小企業がある。このアプリを2018年に開発したワンダーラボ(東京・文京)だ。新型コロナウイルスの影響から学校閉鎖となったカンボジアの小学生向けにシンクシンクを無料で提供。このアプリを使ったオンライン授業の動画の再生回数は平均2万回を超えた。
■ピンチをチャンスに
ワンダーラボが、シンクシンクをカンボジアの小学校に導入する事業に乗り出したのは、コロナ禍が世界を取り巻く直前の2月だった。
シンクシンクを教材として使う実験校(パイロット校)は、6つの州に点在する8校。うち6校は、首都プノンペンとその周りのコンポンチャム、カンダール、スバイリエン、プレイベンに、残りの2校はシェムリアップ州にある。8校に通う約3140人の子どもがこのアプリでテスト的に学ぶ段取りになっていた。
ところが新型コロナの影響で計画は一変する。3月中旬にカンボジア国内のすべての学校が閉鎖。ちょうど、パイロット校8校のうち3校のパソコンにアプリをインストールし、初めての授業が済んだところだったという。学校が閉まっていては当然、アプリのパイロット事業は進められない。
ピンチに陥ったワンダーラボを救ったのは、カンボジア教育省の職員のある一言だった。
「シンクシンクを使った無料のオンライン授業を配信できないか」
ワンダーラボはこの打診をすぐに受け入れた。4月からの3カ月間、カンボジア教育省が週3回配信するオンラインの映像授業で、シンクシンクがもつコンテンツを無料で使えるようにすると決めたのだ。
アプリを用いたオンラインの映像授業のやり方はこうだ。
まず子どもたちは、自宅にあるスマートフォンやタブレット、パソコンでシンクシンクのアプリを開き、ワンダーラボが事前に無料で配ったIDとパスワードを入れる。次に、カンボジア教育省のフェイスブックページやユーチューブチャンネル、カンボジア国営放送で流れる1本30分の映像授業を見る。その授業で出てくる問題を、自分の端末を使って同時に解いていく。
オンラインの映像授業で出てくる問題は1問3分で、内容はシンクシンクのアプリに入っているものと同じ。4~10歳の子どもの思考力を鍛えることに特化した図形やパズル形式の多彩な問題が約100種類1万5000問そろう。
たとえば、ワニに捕まらないように最短距離の道のりを考えて進む「みはりワニめいろ」、たくさんの点の中から4つの点を結んで正方形を描きだす「ましかくさがし」、剣で立体を切って、その断面の形を予想する「いっとうりょうだん」などだ。問題はもちろん、すべてクメール語に翻訳されている。
■アプリユーザーは13倍
シンクシンクを使ったオンラインの映像授業は、休校中の子どもたちに好評だった。4月8日の初回配信から、再生回数は約2万3000回。その後も、30回すべての配信で2万回前後を維持した。また、映像授業を流す教育省のフェイスブックページには平均して809の「いいね!」がつき、シェア226件、コメント944件が集まったという。
ワンダーラボの事業開発マネージャー、金成東(キム・ソンドン)さんは「学校の閉鎖で急きょ始まったオンライン授業が、シンクシンクの認知度を上げるチャンスになった。コロナ前の2月と比べると、オンライン授業が終わった6月には、カンボジアでのアプリの月間アクティブユーザー数は13倍に増えた」と語る。
ワンダーラボが目指すのは、「カンボジアの山間部で暮らす子どもたちも含めて1人でも多く、シンクシンクを自由にプレーできること」。その最大の壁がカンボジアのインターネット環境の悪さだ。
ネット環境はワンダーラボ1社だけでは立ち向かえない課題だ、と金さんは話す。そこで同社が力を入れるのが、パートナー企業とのつながりを増やすこと。カンボジアの通信大手SMARTは、7月に開催したオンラインシンクシンク大会(子どもが日ごろの学習成果を試す自由参加のイベント)のスポンサーになった。
カンボジア初の国産パソコンメーカー、クーンピ(Koompi)との連携も決まった。アプリを試すパイロット校でさえ、パソコン環境が完全に整っていない現状。「ウインドウズのバージョンが古すぎてアプリが動かないというトラブルもあったほど」と金さんは苦労を語る。