ニッチなインド映画が見られるイベント「インディアンムービーウィーク2020リターンズ」(IMWリターンズ)が12月11日から、全国10カ所の映画館で始まる。上映されるのは、日本未公開の作品2本を含むインドのヒット作16本。カーストや就職難といった社会問題をテーマにしたものから、歌やダンスを取り入れた王道の娯楽映画までさまざまだ。IMWの広報担当者は「多くの人にインド映画の面白さと多様さを知ってもらいたい」と意気込む。
■もう1回開催して!
IMWリターンズが開催されるのは、キネカ大森(東京・品川)や新宿ピカデリー(東京・新宿3丁目)を筆頭に、MOVIX京都(京都・中央)やMOVIXあまがさき(兵庫・尼崎)といった松竹マルチプレックスシアターズが運営する全国各地の映画館だ。12月11日から2~4週間、1〜2作品ずつ毎日上映する。
IMWリターンズを企画・運営するのは、都内に本社を置くインド映画の配給会社スペースボックス。2019年から毎年、IMWを開催してきた。2020年9月にもIMW2020を開いたが、新型コロナウイルスの影響で映画館が入場者数を制限。インドの話題作を多くの人に紹介することができなかった。
12月11日から始まるIMWリターンズは、「もう一度開催してほしい」という熱烈な映画ファンの声を受けたものだ。
■ボリウッドだけではない
IMW では、インドの話題作を幅広く上映する。取り上げる作品は必ずしも有名俳優を起用しているというわけではないが、どれも現地で高評価を得たものばかりだ。
さまざまな言語の作品を上映するのもIMWの特徴だ。インドの公用語であるヒンディー語に加え、インド南部で話されるタミル語やテルグ語、マラヤーラム語、カンナダ語の作品も上映する。
インドで製作される長編映画は年間2000本以上。これは米国や中国、ナイジェリアなどの映画産業が盛んな国を抑えてダントツの1位だ。
ユニークなのは、2000本以上の映画は、米国のハリウッドのように1カ所で作られるのではないこと。ボリウッドと称されるムンバイ、インド南西部にあるIT産業の中核都市バンガロール、タミル語映画のメッカであるチェンナイなどいろいろ。映画の中で話す言語も違えば、俳優や監督も地域によって変わる。2018年度に作られた2446本の長編映画は、インド国内の9つの場所、54の言語と幅広い。
それだけにインド映画をすべてカバーするのは至難の業。1つの国とは思えない多様さゆえに、日本に入ってくる作品はこれまで、インドで大きな興行収益をあげたものか、誰もが知る有名俳優が主演する映画に偏っていた。
スペースボックスはヒット作を見つけようと、日ごろからインド各地の映画作品を幅広くウォッチしている。IMWリターンズで紹介する作品について広報担当者は「インド5言語圏で話題になった16作品を集めた。ベスト・オブ・ベストのラインナップ」と自信を見せる。
■カーストの闇を映し出す
IMWでは、カーストや女性差別などインドの社会問題をテーマにした作品も多く取り上げる。
今回の注目作のひとつが「僕の名はパリエルム・ペルマール」だ。最も低いカーストであるダリットの主人公、パリエルム・ペルマールは、自分よりカーストの高い同級生の女子大生、ジョーと恋に落ちる。それを良く思わないジョーの親族がペルマールに度重なるいじめや虐待をする。若者の恋愛と同時にダリットへの迫害を表現することで、ダリットが声を上げづらいインドの社会背景を映し出す。
若者の就職難に焦点を当てたタミル語映画「無職の大卒」も注目だ。主人公のラグヴァランは一流大学を苦労して卒業。だが、飛び抜けた成績の持ち主でもないし、企業へのコネもないことから就職できずにいた。そんななか、隣に引っ越してきたシャーリニや理解のある母の協力のもと、就職を勝ち取る。商売敵である大手建設会社の御曹司と対決するというストーリーだ。
就職に苦労したラグヴァランと、何の知識や努力もないままで会社の重役になっていく御曹司を対比させ、インド社会の不公平さを表現する。もちろん、ダンスや歌、アクションも盛りだくさん。インドの若者が直面する社会問題に楽しく触れられる作品だ。