学校に行けないシリア難民の子どもにスマホを! NGO国境なき子どもたち「写真で心を表現してほしい」

ヨルダン北部にあるザータリ難民キャンプの学校のふだんの授業風景。新型コロナが感染拡大する前に撮影したもの

国際協力NGO「国境なき子どもたち」(KnK、日本支部:東京・新宿)は2021年2月ごろから、ヨルダンのザータリ難民キャンプで暮らすシリア難民の子どもたちを対象に、写真と言葉を使った表現の仕方を学ぶプロジェクトを始める。KnKでシリア難民支援現地事業を統括する松永晴子さんは「写真を通じて、子どもたちの心の内や生活を友だちや先生、また日本人にも知ってほしい」と話す。

このプロジェクトでは、スマホを5~10年生(日本の小学5年生~高校1年生)に貸し出す。子どもたちはスマホのカメラを使い、ザータリ難民キャンプで目にする風景やモノを自由に撮影。それを、コメントと一緒にKnKのインスタグラムに投稿する。

「友だちや先生から、『いいね!』などリアクションしてもらうことで、新型コロナで途絶えていた交流を復活させられる。また、難民キャンプの外の世界中の人々にも発信すれば、子どもたちのことを知ってもらえる可能性がある」(松永さん)

ザータリ難民キャンプにある学校は3月中旬から、新型コロナウイルスの影響で閉鎖。オンライン授業に切り替えた。難民キャンプの中に引きこもり状態となった子どもたちはストレスを抱えて毎日を過ごしているという。

そこで、ザータリ難民キャンプでかねてから情操教育に力を入れていたKnKが考えたのが、スマホとインスタを使って、お互いの状況を知る場を設けるということ。SNSを使って、友だちや先生とのつながりをもたせ、学校に戻りたいと思ってもらうことも大切だとしている。

「子どもたちの親はスマホを持っていても、きょうだいが多いこともあって、子どもたちは自由にスマホを使えない。子どもたち専用のスマホが必要だ」と松永さんは説明する。

KnKは11月16日から12月25日まで、2021年上半期の活動資金とスマートフォンを30台用意するため、クラウドファンディングに挑戦中だ。当初の目標金額270万円はすでにクリア。下半期の活動資金を得るため500万円にネクストゴールを設定し、引き続き寄付を集めている。

子どもがスマホを持つことは、実はほかにも意味がある。

ひとつは、オンライン授業に参加できない子どもを減らすことだ。松永さんによると、ザータリ難民キャンプでは92%の家庭がネットにつながるデバイス(主にスマホ)を1台持っている。だが子どもが多い家庭だと、1台では足りない。オンライン授業に参加できない子どもも当然出てくる。

オンライン授業が長引きそうななか、スマホはもはや“教材”みたいなもの。スマホの有無が教育格差、ひいては将来を左右しないためにも、KnKはスマホを支給したいとしている。

KnKが10月20日までに電話調査したところ、54%の子どもが遠隔授業の内容についていけないと感じていることがわかった。「(スマホを持たせないと)通学が再開される前に、子どもたちは退学してしまう」と松永さんは懸念する。

スマホを持たせるメリットはまだある。大人から受ける暴力に対してSOSを出せることだ。

ザータリ難民キャンプではコロナ禍で家庭内暴力(DV)が増えているとの報告も上がっている。スマホさえあれば、外に助けを求めることは簡単になる。