「ひとつのニュースを日本から見ているだけでは分からないことがある。出来事が起きた現地から、第三国から、と視点を変えてとらえ直すことが大事」。こう語るのは、2019年7月にスタートした国際ニュースサイト「ドットワールド」編集長の玉懸光枝さんだ。海外在住の日本人ジャーナリストや現地人専門家と連携し、オリジナル記事の作成や主要紙の記事紹介をする。
葬儀に参列し取材した記事も
ドットワールドには4つのコーナーがある。各国の政治情勢を論考するオリジナル記事「社会を読み解く」、主要英字紙の社説を紹介・解説する「現地の論調」、そして人々の暮らしのひとコマを写真と動画に収めた「世界写真館」と「動画コンテスト」だ。
記事の書き手と写真の提供者は現段階で24人。フリージャーナリストや大学教授、民間の調査員、写真家などだ。そのうち編集長の玉懸さんを含む3人が編集者としてオリジナル記事を企画している。
オリジナル記事の作成の流れはこうだ。まずドットワールド編集委員が記事のテーマと、どの国の視点から考察するかを考え、企画する。次にそのテーマや国に詳しい書き手に企画の主旨を説明し、連携を提案。これが決まると書き手は取材と記事執筆をし、その記事がドットワールドに掲載される。
4つのコーナーの中でもコンスタントに多くの読者が訪れるのが「現地の論調」だ。11月29日付の社説紹介記事では、アルゼンチンの元サッカー選手ディエゴ・マラドーナさんの訃報をうけてバングラデシュの英字紙「デイリースター」が掲載した社説をピックアップ。新聞の主張が前面に表れる社説を紹介することで、バングラデシュの人々が日々どんな情報に触れているのかを伝える。
社説の紹介は、玉懸さんが立ち上げ当初から外せないと考えていたコーナーだ。「その国にどんな論調があるのか伝えるには社説がぴったり。社説なんて読まれないという声もあったけど、良い反響があり嬉しい」と玉懸さん。
ドットワールドがこだわる「現地の視点」が明確に描かれているのが11月8日付のオリジナル記事。東アフリカ・ケニアでの新型コロナウイルス対策をテーマに、ケニア人の書き手が執筆したものだ。
記事執筆にあたり取材したのは、感染拡大の只中に催された農村の葬儀の場だった。
感染の可能性があるのになぜ大勢が集まり葬儀をするのか。集まった人々は葬儀を欠席することは絶対にできないと口々に言う。
この村では「葬儀で人々が団結して悪霊の魂を湖に追い払わなければならない」と考えられている。葬儀に集まる人が少ないと、湖にたどり着かずに浮遊した魂が新たな死を招くのだという。言い換えると「葬儀に参列しなければその人は死に至る」と考えているのだ。
彼らは多くの人が集まれば感染のリスクが高まることを理解している。一方で、葬儀に参列しなければ死に至るという価値観も持ち合わせる。感染拡大防止のためにケニア政府が通達した行動規制を守ることは、彼らにとって簡単ではないのだ。
葬儀の場で取材して記事を執筆したことには、連携を提案した玉懸さんも驚く。「葬儀に参列して取材するなんて想像もしなかった。ケニア人だから葬儀にも参列できただろうし、同じ言語で取材したからこそ知りえた情報ばかり。一押しの記事」と語る。