「ミャンマーの民主化を求める気持ちはロヒンギャも同じ」。こう話すのは、日本の在留資格をもっていた父親の呼び寄せで、2001年に来日した少数派イスラム教徒ロヒンギャの長谷川留理華さんだ。日本国内に暮らすロヒンギャは約260人で、そのうち長谷川さんのように日本国籍をもつのはおよそ20人(4家族)だ。
民族に関係なく国軍に抵抗
「いまのミャンマーに国軍はいらない。気持ちはひとつになっている」
長谷川さんがこう確信したのは2月14日。都内の代々木公園から国連大学前まで、ミャンマー国軍が起こしたクーデターへの抗議を示す無言行進デモに参加した時だ。ロヒンギャをミャンマー国民だと見なさない他の民族が少なくないため、初めは、デモの最中に何か争いが起きるかもしれないと戸惑いがあった。だが、同じデモに参加したロヒンギャ以外の在日ミャンマー人らは、長谷川さんを受け入れた。
長谷川さんは「ロヒンギャが、ミャンマーの他の民族と一緒になって(これからのミャンマーを)考える足跡を残せた」と振り返る。
もうひとつ、長谷川さんの心に刺さったのは、SNSで目にした、最大都市ヤンゴンの市場の風景だ。店先に、「国軍に商品は売らない!」と書いた看板が立ち始めたのだ。クーデターの前は、「カラー(ミャンマーでロヒンギャを指す言葉)に商品は売らない!」の看板を見ることもあったという。
「クーデターが起きたいま、ロヒンギャに対する差別意識が変わってきたのかもしれない。民族に関係なく軍に抵抗する気持ちが高まっている」(長谷川さん)
「日本にいることが罪」と思うほど心配
長谷川さんからみて、いまのミャンマーはあるべき姿ではない。国軍が、ヤンゴンや第2の都市マンダレー、首都ネピドーでのクーデターに参加する一般市民を、無差別に痛めつける精神状態は理解できないという。
「むごいことを、どうして誰に対しても平然とできるのか」。長谷川さんは、SNSに上がる動画やニュースで、国軍の兵士が放った実弾が当たって道路にぐったりと倒れる人や、頭部を損傷して意識不明になった人、太ももの傷口から大量に出血する人などを目にしてきた。
思い出されるのは、ロヒンギャが国軍から受けてきた迫害の数々。長谷川さんによると、ロヒンギャ女性のレイプや家への放火、小さい子どもが炎の中に投げこまれるといった事件が起きた。「頭に浮かぶのは、映画でも目を伏せたくなるような、残酷な場面ばかり」と明かす。
長谷川さんは続ける。
「できることは、おじやおばを含めた、ミャンマーにいる人たちみんなの無事を祈ることだけ。自分が平和な日本で暮らしているのが罪だと思ってしまう」(長谷川さん)