南アのサファリツアーを家のパソコンから楽しめる! 日本人ガイド「密猟を知るきっかけになってほしい」

バーチャルツアー中の太田ゆかさん。サファリカーを運転しながら、画面の向こうの視聴者に説明する

アフリカ有数の大きさを誇る「クルーガー国立公園」のオンラインサファリツアーを主催する日本人がいる。南アフリカ政府公認のサファリガイドの資格を日本人女性として唯一もつ太田ゆかさんだ。3月8日にはサイの角切りの模様をオンラインで生配信。太田さんは「南アの動物を知るだけでなく、環境問題や密猟の現状について知るきっかけになってほしい」と語る。

角を曲がればライオンがいる?

オンラインサファリツアーの名前は「バーチャルサファリ」だ。日本と南ア北東部にあるクルーガー国立公園をオンラインでつなぎ、サバンナのリアルを日本の視聴者に体験してもらう。太田さんはサファリカーを運転しながら説明し、後部座席に乗ったカメラマンが映像を撮る。行き先は決まっていない。何が起こるかわからないのがバーチャルサファリ最大の魅力だ。

「角を曲がればライオンに出会えるかもしれないし、何もいないかもしれない。暑すぎてカメラが壊れるなど、サバンナならではのトラブルも起こる。視聴者の方はそういうドキドキ感を楽しんでくれている」(太田さん)

太田さんは2020年の8月から、現地の映像技術会社と協力してバーチャルサファリを始めた。11〜1月の雨季を除き、月に3〜4回実施している。最少催行人数は15組。これまでに200組以上が参加した。2時間のツアーの値段は1組3600円だ。

バーチャルサファリを始めたきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だ。2020年4月以降、サファリツアーの主要な顧客である外国人観光客が訪れなくなった。このためツアーの収入はゼロに。太田さんはサファリガイドとしての活動がなくなった。だが「あらゆるものがオンラインになる中で、サファリツアーもオンライン化できると思った」と言う。

観光客が激減した理由は、南ア政府が2020年3月末に最初の国境封鎖を実施したことだ。サファリツアー予約サイト「サファリブッキングス」によると、調査対象となったサファリガイド300人の約9割が「新型コロナの影響で予約数が75%以上減った」と答えた。

サイの角切りに256万円

バーチャルサファリのほか、太田さんは2020年12月〜2021年1月に、サイの角切りのための資金を得るためにクラウドファンディングに挑戦した。集まったのは、当初の目標額110万円を上回る256万円。

サイの角切りは密猟対策として有効といわれる。密猟者はサイの角が目当てだからだ。太田さんは今回、地元のサイの保護団体ライノレボリューションと一緒に6頭のサイの角を切った。当初は2頭の角を切る予定だったが、ターゲットとしていたサイが、たまたま他のサイ4頭と一緒にいたのだ。

ただ、サイの角切りにはお金がかかる。「今回は運良くサイの群れを見つけられたが、いつも上手くいくわけではない。1頭のサイの角をチェーンソーで切るだけで何十万円。その前にまず、角が生えたサイを広大なサバンナの中で見つけないといけない。その人件費もかかる。何台もの車とヘリコプターを使い、1頭見つけるのに3週間かかることもある」(太田さん)

サイの角を狙った密猟が起きる裏には、ベトナムや中国などでサイの角に対する需要が根強い問題がある。中国ではサイの角を原料に作った伝統的な薬がかぜやがんに有効だと信じられている。ベトナムではまた、サイの角の置物は富の象徴。金以上の価値があるとされ、1本3000万円の値が付くようだ。

角を狙った密猟は、結果的にサイの命を奪う。サイの頭部から根こそぎ角を切るからだ。太田さんは「密猟者は早く逃げるために雑な切り方をする。そのため多くのサイはすぐには死にきれずに、ジワジワと出血多量で死んでいく。本当に許せない」と訴える。

太田さんは今回のクラウドファンディングを成功させるために工夫を凝らした。支援者はリターンとして、サイの角を実際に切っている模様を生配信で見られるのだ。オンライン上で太田さんに質問もできる。太田さんは「サイの角切りを生配信するのは私が知る限り初めて。サイの密猟への認識が少しでも広まってほしい」と語る。

クラウドファンディングに踏み切ったきっかけは、観光収入の減少でサイを保護する資金がなくなったこと。南ア政府の報告によると、新型コロナ感染拡大の影響で最悪の場合、同国の2020年の観光収入は2019年と比べて約75%も減る見通しだ。現在も回復の見通しは立っていない。アフリカにある多くの動物保護団体も活動資金を寄付に頼っている状態だという。

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