「アフリカ最後の植民地」といわれ、隣国モロッコに45年も占領される西サハラ。この地域に古くから住むサハラーウィは、モロッコ政府から数々の人権侵害を受けてきた。サハラーウィはなぜ、独立できないのか。「翻弄される西サハラ」シリーズの第2弾ではその理由を探る。(第1回はこちら)
砂まで搾取
アフリカを25年以上取材するアジアプレス所属のジャーナリスト、岩崎有一さんは西サハラ独立の糸口をこう語る。
「西サハラ問題の根本的な原因は、領有権がどこにあるかはっきりしないこと。解決策は明確。独立の是非を問う住民投票を実施することだ」
だがその住民投票は実施されない。西サハラの独立を求める「ポリサリオ戦線」、モロッコ政府、国連の3者は1991年に住民投票をやることで同意した。ところがモロッコ政府はことあるごとに、住民投票の実施に向けたロードマップに異を唱えてきた。
モロッコ政府が住民投票を阻むのは、西サハラの資源を利用し続けるためだ。
西サハラではリン鉱石の採掘が盛んだ。埋蔵量は世界一といわれる。モロッコはリン鉱石や、それを加工してできる農業用肥料を世界各国に輸出する。その額はモロッコの国内総生産(GDP)の6%になるという。
モロッコはまた、西サハラ近海でとれる海産物も利用する。西サハラの海域は、タコ、イワシ、マグロなどさまざまな海産物がとれるアフリカでも有数の漁場だ。モロッコで水揚げされる海産物の74%は西サハラでとれるといわれる。これを「モロッコ産」と称し、世界中に輸出する。
日本もその恩恵を受ける国のひとつだ。主要品目はタコ。日本市場の2割を占める。ほとんどのタコはモロッコではなく、西サハラの沿岸都市ダーフラの近海でとれるという。西サハラのタコがモロッコ産として日本のスーパーに出回るのだ。
「モロッコは(西サハラの資源なら)何でも利用する」と岩崎さんが語るように、モロッコは西サハラのサハラ砂漠の砂まで輸出する。スペイン領カナリア諸島のラス・パルマスの人工海岸に敷くという。
モロッコはビジネスパートナー
モロッコ政府のこうした搾取を先進諸国は黙認し続けてきた。なぜなら先進国にとってモロッコは貴重なビジネスパートナーだからだ。
モロッコには、ルノーやステランティス(プジョー、クライスラー、フィアットなどの欧米車ブランドが合併して誕生した多国籍自動車メーカー)の工場がある。それを追う形で自動車部品メーカーも多く進出する。
あまり知られてはいないがモロッコ最大の輸出品目は車と部品類。経済指標をグラフ化するウェブサイト「OEC」の2019年のデータによると、その輸出額は総額の23%を占める。ほとんどが欧州向けだ。
日本の自動車部品メーカーも多くモロッコに進出する。車のワイヤーハーネスを作る住友電装はすでにモロッコに4つの工場をもつ。矢崎総業も2021年1月、新たに3カ所の工場を建設すると発表した。モロッコに進出する日本企業は2019年時点で、アフリカのなかで南アフリカ、ケニア、エジプトに次いで4番目に多い。
「西サハラの独立を支持すること=モロッコでのビジネスを諦めること。西サハラの問題について先進国は声を上げにくい」(岩崎さん)
国連の動きも鈍い。国連の意思決定に大きな影響力を持つ常任理事国はすべてモロッコのパートナーだからだ。モロッコを表立って批判することはない。