1日の食費はわずか40円
ケンデさんにとって、コロナ禍での1カ月の最高収入は、2020年12月に記録した12万CFAフラン(約2万4000円)。これは、ベナンの1カ月の最低賃金4万CFAフラン(約8000円)の3倍だ。それでも「家計は苦しい。何か問題が起こったらすぐに赤字になってしまう」とケンデさん。12万CFAフランは、協力隊員がベナンにまだいたときの最低月収に相当する金額だ。
ケンデさん一家の1カ月の固定費は9万3500CFAフラン(約1万8700円)。内訳は、家賃・光熱費に2万CFAフラン(約4000円)、ベナンの名門アボメカラビ大学に通うために離れて暮らす娘への送金4万CFAフラン(約8000円)、車の修理維持費に最低でも3万3500CFAフラン(約6700円)。
12万CFAフラン(約2万4000円)からすべての固定費を引くと、家族4人の食費として手元に残るのはわずか2万6500CFAフラン(約5300円)。食費にかけられるお金は、協力隊員がいたころの半分以下になった。食事の質も当然、下がった。パット(トウモロコシ粉で作るベナンの主食)に付けるソースに入れる魚が買えない日もある。前のように大きな魚は食べられない。
「協力隊員がいたときの最高月収は25万CFAフラン(約5万円)。当時は車の備品を取り換えるときは新品を買っていた。それでも月に3万CFAフラン(約6000円)以上貯金できた。今は出費を減らすために備品は中古。手入れの回数も減らしている。貯金に回すお金はない」(ケンデさん)
ケンデさんの生活が一番苦しかったのは、コロナ禍が始まった当初だ。1カ月の収入が4万CFAフラン(約8000円)しか得られなかったことも。これまでの貯金を切り崩し、きょうだいには借金したという。
「朝にアタシ(豆ご飯)、夜にパンだけの1日2食で過ごしたこともあった。200CFAフラン(約40円)しかかからないから。そのときと比べれば、僕はいま、日本大使館の職員のおかげで何とか生きられている」とケンデさんは語る。
きっかけは協力隊員を乗せたこと
ケンデさんは実は、約20人の個人タクシー運転手を取りまとめるリーダーだ。日本人をはじめとする顧客の窓口でもある。そのため、仲間よりも優先的に仕事をとれる。収入はそのぶん高くなる。
ケンデさんから割り振られる仕事が減ったほかの運転手は、コトヌー市内のタクシー停留所で客を探す。一日中待っても客が見つからないこともざらだという。「コロナ禍でタクシー運転手はみんな赤字だ。彼らは(僕より)もっと苦しい」とケンデさんは複雑な表情を見せる。
ケンデさんが、個人タクシーのグループを立ち上げたのは2017年。きっかけとなったのは、2011年にたまたま協力隊員を乗せたことだ。ケンデさんの誠実さを気に入った隊員が他の隊員に紹介。評判が評判を呼び、次第にJICA職員や大使館職員にまで客層が広がった。