フェミサイドが増え続けるメキシコ、1日10人の女性が殺されていた

フェミサイドに反対するメキシコの女性たちがデモ行進に参加した2020年の国際女性デー。過去最多の8万人がメキシコ市中心部の路上を埋め尽くした(写真はエル・パイスから引用)

メキシコ社会人類学高等研究所(CIESAS)の浅倉寛子教授はこのほど、在日メキシコ大使館が主催したイベントに登壇し、メキシコで横行するフェミサイド(女性を標的とする殺人)をはじめとするジェンダー暴力が減る兆しが見えないと語った。ロペス・オブラドール氏が2018年12月に大統領に就任して以来、1日に10人の女性が殺されてきたとされる。このオンラインイベントは、3月8日の「国際女性デー」を記念して開かれた。

コロナで女性への暴力が激増

メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)によると、ロペス・オブラドール政権下で犠牲になった女性は2021年2月末までの2年3カ月で8418人。1日あたり約10人が殺されている計算だ。

フェミサイドはメキシコでここ数年、毎年10~20%の水準で増えてきた。INEGIの直近8年の報告では、2013年は319件。それが14年326件、15年757件、16年462件、17年770件、18年849件、19年1036件となった。

レイプされる女性は16分に1人。女性の66.1%が何らかの暴力を受けているのが現状だ。

「新型コロナが社会に蔓延するにつれて、女性への暴力は増える一方だ」。浅倉教授はこう指摘する。

理由は、3月30日~4月30日のロックダウンでステイホームを余儀なくされたからだ。メキシコの新聞エル・エコノミスタが4月16日に掲載したデータによれば、ロックダウンをメキシコ政府が宣言した後、女性と子どもに対する暴力は12倍に増えた。被害者の9割は女性だ。

ジェンダー暴力のひとつとされる「早婚」も深刻だ。UNウィメンによれば、メキシコでは20~24歳の女性のうち、18歳以下で結婚した割合は2014年時点で21%。15歳以下も4%いる。

浅倉教授によると、12~13歳で結婚させられる前にレイプされてしまった少女が親に殴られるケースもある。「理由は、結婚する前に処女を奪われ“汚い体”になったことで、家族の名誉を傷つけられたと親が思うからだ。悪いのは、レイプした男なのに、なぜ少女が責められないといけないのか」と浅倉教授は怒りをあらわにする。

8万人がフェミサイドに「ノー」

女性がメキシコ政府に直接、暴力をやめるよう訴えかける日がある。3月8日の国際女性デーだ。

女性らはこの日、メキシコ市の独立記念塔からソカロ(中央広場)までデモ行進する。2021年はコロナ禍で参加者は2万人と少なかったが、2020年は8万人にのぼった。

デモ参加者の一部は暴徒化したようだ。スペインの新聞エル・パイスは3月9日、19人の参加者と62人の警備隊が負傷したと報じた。デモ参加者を追い払うために警備隊は催涙ガスを使った。

デモ参加者が年々増え続ける中、メキシコ政府はデモ隊が侵入するのを防ぐため、高さ約3メートルの金属柵を政府庁舎の前に置いた。このときの光景について浅倉教授は「この金属柵に、デモ参加者はフェミサイドの犠牲者の名前を書いていった。これだけ苦しんでいると主張するためだ」と話す。

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