フェミサイドが増え続けるメキシコ、1日10人の女性が殺されていた

フェミサイドに反対するメキシコの女性たちがデモ行進に参加した2020年の国際女性デー。過去最多の8万人がメキシコ市中心部の路上を埋め尽くした(写真はエル・パイスから引用)

「性暴力アラート」の効果に疑問

「メキシコ政府はこれまで、女性の訴えに耳を傾けてこなかった」(浅倉教授)。かつてのエルネスト・セディーリョ大統領(1994~2000年)やビセンテ・フォックス大統領(2000~2006年)は「フェミサイドが起こるのは、被害者(女性)に非があるからだ」と主張。浅倉教授によれば、メキシコの歴代大統領は「女性は土曜の夜遅くにディスコへ踊りに行ったり、ひとりで知らない街をふらついたりするから男性に襲われやすくなる」と説明していたという。

ただメキシコ政府は、フェミサイドの問題に無策だったわけではない。カルデロン政権下の2007年、「暴力のない生活への女性のアクセスに関する一般法」が成立した。この法律の目的は、「女性や少女に対する暴力をやめさせ、安全を保障すること。また、不平等が起きないよう法整備する」だ。

この法律を受けて始まったのが「女性に対する性暴力アラート」だ。ジェンダー暴力の件数が増えたり、女性の人権が侵されたりした場合、メキシコ内務省がアラートを発令する。これを受けて、州政府は専門家の助言に基づき、対策を講じる。警官を配備したり、緊急電話オペレーターを増員したり、事件発生後の調査を徹底したりといった具合だ。

アラートが初めて発令されたのは2015年(メキシコ州)。最後は2017年(ベラクルス州)だった。この間、全32州のうち13州でアラートが出た。浅倉教授は「アラートを広範囲に広げれば、結果として人々の警戒意識は上がらない」と効果の低さを指摘する。

フェミサイドの犠牲者の名前を書いていくデモに参加した女性たち(写真はBBCから引用)

フェミサイドの犠牲者の名前を書いていくデモに参加した女性たち(写真はBBCから引用)

メキシコ政府がデモ隊の侵入を警戒して置いた金属柵(写真はBBCから引用)

メキシコ政府がデモ隊の侵入を警戒して置いた金属柵(写真はBBCから引用)

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