経済的に世界で最も悲惨な国は、経済が破綻した南米ベネズエラ――。これは、米ジョンズホプキンス大学のスティーブ ・ハンケ教授(経済学)が4月14日に発表した「2020年悲惨指数」によるもの。ワースト2位はアフリカ南部のジンバブエ、ワースト3位は北東アフリカのスーダンだった。対照的に、最も幸福な国とされたのは、原油開発が始まったガイアナ。ガイアナはベネズエラの隣の国だ。
ハンケ教授が考案した悲惨指数の算出方法は、その年の失業率、インフレ率、銀行の貸出金利を単純に足し、そこから実質GDP成長率を引く。数字が高いほど悲惨な国とされる。
ベネズエラは5年連続で、経済的に世界で一番悲惨な国となった。原油価格の暴落と腐敗したマドゥロ政権によって経済状況は悪化の一途をたどる。2020年の失業率は50.3%と前年の24%から上昇。インフレ率は3713%と前年の7374%から下がったものの、世界最悪の数字だ。ベネズエラではハイパーインフレによる食料、薬を含むすべての物不足や、インフラの崩壊、治安の悪化が問題となっている。
ベネズエラの悲惨指数=失業率(50.3%)+インフレ率(3713.3%)+銀行の貸出金利(33.1%)-実質GDP成長率(マイナス30.9%)=3827.6
ジンバブエでは、2017年まで続いたムガベ政権が引き起こした2度のハイパーインフレの結果、現在も国民が苦しい生活を強いられている。2020年のインフレ率は495%、銀行の貸出金利は35%とともに高い。ムガベ政権下の2008年11月には物価が24.7時間ごとに倍増。2009年に自国通貨を米ドルにしたことで事態の打開を試みるが、2017年11月にクーデターで追放されるまでにハイパーインフレに再度陥った。
ジンバブエの悲惨指数=失業率(4.9%)+インフレ率(495%)+銀行の貸出金利(35%)-実質GDP成長率(マイナス12.1%)=547.0
スーダンは、インフレと紛争に加えて、流入し続けるエチオピア難民の問題に直面している。スーダン政府は2021年初め、スーダンポンドの対米ドル為替レートを85%切り下げ、この結果、インフレはさらに高進した。2月には、スーダン西部のダルフール地域で紛争が再び勃発。エチオピアからスーダン東部へ逃れた難民の問題が紛争の新たな火種になることも危惧される。
スーダンの悲惨指数=失業率(25%)+インフレ率(141.6%)+銀行の貸出金利(16.6%)-実質GDP成長率(マイナス10.7%)=193.9
ワースト4位になったのは中東レバノン。2020年のインフレ率は138%、実質GDP成長率はマイナス24.7%だった。レバノン政府は2020年3月、外貨建て国債の債務不履行(デフォルト)を宣言。結果として、1米ドル=約1500ポンドで固定される通貨レバノンポンドの実勢レートが下落。中東・北アフリカ(MENA)地域で初のハイパーインフレに入った。
同年8月にレバノン政府の対応に抗議するデモが激化。政権が退陣を表明してから政治の空白が続く。政治、経済ともに回復の見通しが立たない状況で、国連は、2021年3月時点でレバノン国民の推定55%が貧困層になったと発表した。
レバノンの悲惨指数=失業率(6.3%)+インフレ率(138%)+銀行の貸出金利(8.1%)-実質GDP成長率(マイナス24.7%)=177.1
対照的に最も経済的に幸福な国となったのは、ベネズエラの東に位置するガイアナだった。原油生産が始まったことから、実質GDP成長率は25.8%に上昇した。2位は台湾。3位は2.6%のデフレとなったカタール。カタールは、新型コロナウイルスの流行が引き起こした失業や外国人労働者の離職により、消費者需要が減退したことがデフレにつながった。4位に日本が続いた。
ガイアナの悲惨指数=失業率(11.8%)+インフレ率(1%)+銀行の貸出金利(9.7%)-実質GDP成長率(25.8%)=マイナス3.3
台湾の悲惨指数=失業率(3.8%)+インフレ率(0.1%)+銀行の貸出金利(2.5%)-実質GDP成長率(2.6%)=3.8
カタールの悲惨指数=失業率(0.5%)+インフレ率(マイナス2.6%)+銀行の貸出金利(2.8%)-実質GDP成長率(マイナス4.6%)=5.3