医療者はテロリストか
村田氏が活動責任者を務めていた病院は、内戦で使われなくなった小学校。そこで勤務する医療従事者の9割はシリア人だ。1割が海外から集まったスタッフだ。
病院は、負傷者の傷を治す外科手術をするだけでなく、一般外来、産婦人科、小児科もそろえる。また栄養失調や予防接種のプログラムなどもある。
村田氏は「『新型コロナウイルス感染拡大による医療崩壊』という言葉がよく使われるが、シリアでは意図的な攻撃による医療崩壊が起きている。病院への無差別的攻撃は今すぐやめるべきだ」と怒りをにじませる。
村田氏と同様に、病院への攻撃を批判するのは、アレッポ出身のシリア人医師ハムザ・アルカディーブ氏だ。ハムザ氏は、政府軍から猛攻撃を受けたアレッポに残って、最後まで病院で働いた。今回のオンラインイベントにはビデオメッセージを寄せた。
「政府軍が街を掌握すると、医療従事者はみんな、政府の支配地域の外にいただけの理由でテロリストとして扱われる。シリアを脱出して難民になること以外、生き残る方法がない過酷な現実だ」
アサド政権とロシアが悪い
シリアは2011年3月、民主化運動「アラブの春」が波及して反政府デモが起きた。これに対してアサド政権は徹底的にデモを弾圧。反政府勢力が現れるなか、アサド政権の後ろ盾としてロシアが15年9月、シリアに軍事介入。戦況はアサド政権側が優勢となった。
ハムザ氏は「シリア人が望むのは、(内戦の)責任の所在を明らかにし、シリア内戦を終結させることだ。内戦の原因は、9割がシリアとロシア両政府の仕業ではないか」と訴える。
ハムザ氏のビデオメッセージを受けて村田氏は「シリア内戦を終結させるためには、私たち(世界中の人たち)がシリアの現実を知る必要がある」と話す。
シリアを知る方法のひとつとして、今回のイベントで主催者が紹介したのは、ドキュメンタリー映画「娘は戦場で生まれた」(原題:For Sama)だ。これは、主人公である幼い娘サマちゃんが成長するようすを、母親が2016年以降のアレッポで撮影したもの。戦闘で破壊された街並みや、空爆で殺された息子の名前を叫ぶ母親の姿などを鮮明に映し出す。サマちゃんの父親であるハムザ氏も出演している。