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9カ月で2回もクーデターが起きた西アフリカのマリ。暫定大統領に就いたアシミ・ゴイタ大佐は、2022年の2月までに民政移管のための大統領選挙を実施すると発表した。それに対して京都精華大学のウスビ・サコ学長は「マリの民主化はまだ早い。マリ人というアイデンティティーはまだ足りない」と危惧する。3回にわたるインタビューの最終回。(前回、前々回)
――政情不安なマリは常に、外国から干渉されてきた。2012年には北部紛争が勃発し、フランスから軍事介入を受ける。その後もテロとの戦いは続き、フランス軍はいまだに駐留する。内政に目を向ければ、1960年に独立してから5回のクーデターを経験した。そのたびに国際社会から批判される。マリが今後、他国から干渉されず、国として自立するには何が必要か。
「教育と仕事。教育を受けてしっかり働いて、自分たちで働いた分で飯を食う。自分で自分を助けるしかないという感覚を取り戻すことが必要。
昔は、しっかり教育を受けないと仕事が見つからない、将来食っていけないというビビり感があった。今はそれが全くない。怠けても誰かが手を差し伸べてくれると思っている。
国全体としても、フランスや国連を少し応援すれば(従えば)、なにかもらえると思っている。マリ政府は、マリの国民のために動こうとせず、誰を味方にすれば自分たちが存続できるかしか考えていない」
――アシミ・ゴイタ暫定大統領は、来年(2022年)2月までに民政に移行させる選挙を実施すると国際社会に約束した。マリは選挙を通じて民主化を進めるべきと思うか。
「マリの民主化はまだ早い。民主化はひとりひとりがマリ国民という自覚があって、誰のため、何のための投票なのかを理解することが必要。
だがマリ人にはマリ人という認識が少ない。また識字率も30%以下。そんな中で(選挙をしても)『政治家の言っていることはよくわからないが、あいつはお金をいっぱいくれるから(あいつに投票すれば)いいか』となる。
また、(マリ政府や国民は)本当に民主化が必要だとは思っていない。ひとりひとりの責任感も足りない。外から言われたから仕方なく(選挙を)やるだけ。
民主化はあくまで、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)やアフリカ連合(AU)、フランスのためのものだと思っている」
――マリはクーデターのたびに、国際社会から民主化するようプレッシャーをかけられてきた。ECOWASやAUが主導する民主化によってマリはどう変わったか。
「マリでは民主化で汚染(汚職)が正当化された、と私は思う。
投票してもらうためにお金を払ったり、選挙の後にポストを用意するやり方が横行している。そしていざ当選したら、使ったお金を取り戻すため、食えるものをすべて食っていく(お金をどんどん使い込む)。
田舎で農業をする人の多くはいま、汗水たらして働くのがばからしいと考えている。都会に出て何か選挙運動に参加したら、それだけでお金(不正な政治資金)がもらえるから。マリは民主化して貧乏になった。
家族もコミュニティーの形も変わった。変に多数決という平等主義をすることによって、絶対的だった父親の姿はもうない。(イスラムの)宗教団体の分裂も続いている。宗教指導者をテレビで批判するなんて、昔は考えられなかった」
――サコ学長が考えるマリの理想的な形とは何か。
「アフリカ独自のデモクラシー(民主主義)がいい。長老がいて、みんなそれに従うみたいなコミュニタリアリズム(共同体主義)。
私たち(マリ人)はいまだに出身の地域や村を尊重する。村長に言われたら絶対。村に恥をかかせたら終わり。
私は首都バマコ出身だが、バマコよりも、小さいころ住んでいたソゴニコという地域にアイデンティティーを感じる。
各村に尊敬される村長がいて、地域や村といった小さい集団を基準にして動いていくのがいいのではないか」(おわり)
<最後に>
サコ学長は2021年6月、自身のフェイスブックで今後のマリについてこう書いている。
「マリ、アフリカ、そして人々は悪くなっている。(略)私たち(マリ人)のために、マリを建設し、発展させようと来る人はいない。マリ自身が成功し、生き残り、アフリカと世界の中にその地位を確立させなければいけない」
【ウスビ・サコ氏】
1966年、マリの首都バマコ生まれ。高校卒業後、中国の南京で建築学を学び、1991年に来日。2001年、精華大学の講師として働き始め、2018年より同大学の学長を務める。日本の大学で初めてのアフリカ出身の学長。著書に「アフリカ出身 サコ学長、日本を語る」(朝日新聞出版)がある。