300以上の都市で反政府デモ
マルチンスさんは、マレー運動前線の活動を通して住民が支え合う理由について、極右のボルソナーロ政権への不満をぶちまける。
「ワッツアップ(日本のLINEに相当する通信アプリ)のグループチャットで拡散された『新型コロナウィルスなんて存在しない』などのフェイクニュースの流出元をたどると、行き着くのはボルソナーロ大統領。マラリア治療薬のクロロキンを、効果が確かめられていないのに『新型コロナの特効薬』とも喧伝。ワクチンを打った人をばかにした言い方もする」
軍人上がりのボルソナーロ大統領は、コロナ禍で保健相を次々と更迭。他の省庁のトップも軍人に変えていった。マルチンスさんは「(軍人は)専門性をもたないから、政府はまっとうな予防啓発を実施できない。市民は正しい情報をもらえない」と懸念する。
貧困層にはさらなる懸念もある。PCR検査の不十分な体制だ。ブラジルの無料の公的医療制度(SUS)にもとづいて貧困地域に設置された診療所は、PCR検査に未対応。遠くにある無料の公立病院に足を運べない場合、薬局にある市販の検査キットを買うしかない。マルチンスさんは「検査キットは、時には300レアル(約6000円)以上。これは貧困層の月収の半分近く」と話す。
新型コロナに無策な政府に市民が募らせる不満は、すでに爆発している。マルチンスさんによれば、2020年のパンデミック(新型コロナの大流行)以降、ボルソナーロ大統領の記者会見がテレビで流れると同時に、市民が自宅の窓辺で抗議のために鍋を鳴らす「鍋叩きデモ」が続く。
ワクチン接種の迅速化を求める路上デモも始まった。デモは、2021年5月から7月までに3回、国内300以上の都市で同時に発生。マルチンスさんによると、参加したのはファベーラの住民、先住民、マレー運動前線のような団体、公立校の教師の団体だ。「腕にワクチンを、皿に食べ物を」「ワクチン、仕事、ボルソナーロは辞めろ」などの看板を掲げた人が多くいたという。