ミャンマーの反軍政デモの裏で子ども兵士が増える、メディアは取り上げなくていいのか

ミャンマー北東部のカチン州にある国内避難民(IDP)キャンプ。キャンプにいる子どもは徴兵の格好のターゲットになりやすい

「(民主派議員などが結集した)国民統一政府(NUG)が(クーデターを起こした)国軍に対抗するために頑張っている、とメディアは取り上げる。だが子ども兵士の問題はどうなのか」。ミャンマー関連の報道にこう警鐘を鳴らすのは、テラ・ルネッサンス佐賀事務所の職員で、ミャンマーの子ども兵士について研究する佐々木純徹氏だ。8月11日に同団体が主催するオンラインセミナーに登壇した。

佐々木氏によると、子どもを徴兵しているのは国軍と少数民族の武装組織の両方だ。NUGには民主派の議員だけでなく、反国軍の立場をとる少数民族も多く加わった。国軍とNUGの対立が激化したことで、兵士の需要は急増。「徴兵される子どもはすでに増えてきた」と佐々木氏は危機感を募らせる。

佐々木氏は、人権の尊重を掲げるNUGの姿勢を支持する。「だが重大な人権侵害である子どもの徴兵にNUGが関与することは明らかな矛盾だ」と指摘する。「NUGが子どもを徴兵している状況では、(民主的な)国際社会からNUGが支持を得ることはできない」と子どもの徴兵を直ちにやめるよう訴える。

国軍のこれまでのリクルート方法は、都市では孤児やストリートチルドレンを連れ去ることが少なくなかったという。佐々木氏は「彼らは出生証明書をもたない場合が多い。それを理由に国軍は投獄か徴兵かの選択を迫る」と説明する。農村では、軍人が昼間に偵察に来て、子どもを夜に連れ去るケースもある。

対照的に少数民族の武装組織は、連れ去ることはあまりしない。「ただ村や家族単位で毎年何人かの子どもを兵士にするという暗黙の了解があるときがある。このため村人は、子どものころからいつ軍隊にとられるかとストレスを感じている」(佐々木氏)。村から離れた都市に親せきがいれば、中学や高校で都市の学校に行き、家族で協力して徴兵を逃れようとすることもあるという。

ミャンマーの子ども兵士の問題はかねてから、国連児童基金(UNICEF)や国際労働機関(ILO)などが報告してきた。2018年8月31日付のUNICEFの発表によると、ミャンマー国軍は2012年に国連と「共同行動計画」に調印して以来、924人の子ども兵士を解放した。

ところが少数民族の武装組織の子ども兵士は解放されなかった。その理由について佐々木氏は「これまでの政権は少数民族と対立していたため、少数民族の問題を解決しようとしなかった」と指摘する。AFP通信の2017年1月3日付記事によると、7つの少数民族の武装組織が子ども兵士を国境付近での戦闘に投入している、と国連は非難していた。

深刻なのは、国軍の子ども兵士は解放されても、簡単に社会復帰できないことだ。その原因は、周囲からの差別。差別を受ける理由は、元子ども兵士の性格が暴力的で問題を起こす可能性が高い、と周りが思うからだという。また「ミャンマーは貧困層が多いため、元子ども兵士だけが社会復帰プログラムを受けることにジェラシーを抱く人がいる」と佐々木氏は言う。

対照的に、少数民族の武装組織の子ども兵士は「愛国的な者と周囲から好意的にみなされる傾向がある」と佐々木氏は話す。社会復帰する際の問題点については、国連が提供する社会復帰プログラムへの参加資格がないことをあげる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが2002年に発表した報告書によると、ミャンマーには、国軍と少数民族の武装組織合わせて約7万人もの子ども兵士がいる。これは、UNICEFが推定する南スーダンの1万7000人の4倍以上だ。