ナプキンちょうだい!
今でこそミスターパッドとして名を馳せるフセインさんだが、活動を軌道に乗せるまでは苦労した。なぜならフセインさんが男だからだ。
ケニアでは生理やセックスの話はタブー。男性が女性に話すなんてもってのほかだ。
キルタが発足した2015年当初、フセインさんは教会やモスクに行き、「女の子たちに性教育をさせてほしい」と頼み込んだ。だが牧師・神父やムッラー(イスラム教に精通したモスクのリーダー)は、男であるフセインさんが女の子に生理の話を直接するのを嫌がった。フセインさんは泣く泣く生理用品だけ置いて帰った。
女性のエンパワーメントを掲げる団体からも距離を置かれた。こうした団体のスタッフのほとんどは女性。男性のフセインさんは異色の存在だったからだ。国際NGOが運営する基金への申請の話といった重要な情報も回ってこなかった。
「みんなで性の話をしよう」と若い女の子を募集しても、最初に来たのは5人だけ。次の週は3人に減っていた。
苦難の連続だったが、フセインさんは諦めなかった。
「生理の問題をみんなのものにするためには、男である自分がイニシアティブをとらないといけない」(フセインさん)という強い信念があったからだ。
フセインさんは足しげく教会やモスクを訪問。女性エンパワーメントの団体とも積極的に交流した。キルタに所属する女の子には「生理は恥ずかしいことじゃない」「私はみんなのためにここにいる」と語り続け信頼を獲得。友だちが友だちを呼び、今では約320人の女性が所属する一大組織となった。
「女の子たちは今では大きな声で『ナプキンちょうだい』と言ってくる」とフセインさんはうれしそうに語る。
首をつって自殺
ケニアでは生理やセックスの情報が正確に伝わっていない。結果、生理中の女の子を汚いものとしてみなしたり、親が女の子にナプキンを買ってあげないなどの問題が起こる。女の子たちは自分を汚れたものだと誤認し、生理中は学校や教会に行かなくなる。
2018年、生理への偏見が大きな悲劇を生んだ。ある女の子が登校中に生理が始まった。ナプキンを持っていなかったため出血を抑えられない。
それに気づいた教師は全校集会でその女の子を「くさい。汚い。生理中の女子は学校に来るな」と罵った。全校生徒の前で辱めを受けた女の子は心を痛め、次の日、首をつって自殺した。
こんな悲劇が二度と起こらないよう、フセインさんは今後も性教育に力を入れる。同時に、女の子が安心して生活できる環境を整備していく予定だ。2021年中には「パッドバンク」と命名したナプキンの倉庫を建設。毎月1000人以上の女の子に無料のナプキンを配ることを目指す。
またキルタのスペースにマットレスを置き、生理への偏見で心を病んだ女の子や、虐待を受けた子を受け入れるシェルターも作る予定だ。(続く)