【キベラスラムで闘う人たち⑥】スラム発のタレントプロダクション! FBライブでアーティスト売り込む

オンラインのイベント中、動画を確認するオチエンさん(上)

「キベラの才能を世界に発信したい」。こう意気込むのは、ケニア・ナイロビのキベラスラムに住むシャドラック・オチエンさんだ。オチエンさんは2018年、タレントを発掘する地域社会組織ナネ・エクスペリエンスを設立。フェイスブック上で毎週、音楽イベントを開催し、キベラ出身のアーティストにスポットライトを当てる。(第1回第2回第3回第4回第5回

ユーチューブの再生回数20倍

ナネ・エクスペリエンスはオンラインイベントで毎回2~3人・組のミュージシャンやグループ、ダンサーを紹介する。まずMCとアーティストが対談し、そのあとにパフォーマンスをするという“ミュージックステーション形式”だ。これまでに40回以上開催した。

以前はキベラスラム内外のライブ会場でイベントを開いていた。ところが新型コロナウイルスが蔓延。フェイスブックライブに切り替えた。

苦肉の策だったが、続けるにつれて視聴者を獲得。ナネ・エクスペリエンスのフェイスブックページを「いいね!」する人は現在1万2000人以上。フォロワーは1万4000人以上になった。毎回1000人以上の人がフェイスブックライブを視聴するという。

「ナネ・エクスペリエンスはキベラの才能を発信するプラットフォームだ」

オチエンさんのこの言葉通り、ナネ・エクスペリエンスがこれまでに紹介したアーティストは100組以上。その一部はケニア国内でメジャーデビューを果たした。

その代表格が、ヒップホップラッパーのマッド・マックスだ。マッド・マックスは数年前まで無名だったが、ナネ・エクスペリエンスのライブイベントに参加してブレイクした。

法律を無視した警察による殺人やスラムの若者の苦悩を歌った代表曲「Walking Dead」は大ヒット。ブレイク前は6000回だった公式ユーチューブの動画の視聴回数は12万回を超えた。

「スターになったマッドマックスだが、今でも俺たちに感謝しているよ」とオチエンさんは喜ぶ。

キベラ発のショーケース!

オチエンさんがナネ・エクスペリエンスを設立した裏には、自身のミュージシャンとしての苦労がある。

オチエンさんはかつてシンガーソングライターだった。数多くの曲を書き、何度もライブした。だがやってもやっても知名度は上がらない。

「ライブはいつも同じ場所。来てくれる人も同じ人。自分の音楽を多くの人に届けることができなかった」(オチエンさん)

周りを見渡しても同じだった。才能のある人は多くいたが、みんな成功できずもがいていた。

「お店がなくてどうやって物を売るんだ! 俺がキベラのアーティストのためにショーケースを作る!」

こうしてオチエンさんはプロモーションに特化したナネ・エクスペリエンスを設立。キベラスラムの内外で2カ月に1回、キベラのアーティストを起用したライブイベントを開くように。また大手のタレント事務所やテレビ関係者と少しずつ関係を築いていった。

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