米国の「対中カード」にならない
中国政府が少数民族への中国語教育を徹底する理由のひとつが米国との対立だ。とくにトランプ前政権は「ジェノサイド(民族集団の虐殺)」に強く反発していたという。米国の狙いをブレンサイン氏はこう分析する。
「モンゴル語による教育の禁止は、いわば『文化的ジェノサイド』。米国にとって内モンゴルは、約10年前から弾圧を受ける新疆ウイグル自治区やチベット自治区と同じく、中国に圧力をかける好材料になった。内モンゴルも『対中カード』に使えるかを検証したのだろう」
米国の下院議会では少なくとも一回、モンゴル族が受ける言語への弾圧が議題にあがった。米国政府に請願を出すサイト「WeThePeople」上に、モンゴル語教育の禁止に反対する人たちが署名したからだ。その数は、2020年9月4日に始めてから10日で10万人を超えた。WeThePeopleには、署名活動が始まって30日以内に10万人が参加すれば、米国政府が何らかの回答を出すとの規定がある。
だがブレンサイン氏は「どうやら内モンゴルは、新疆ウイグルやチベットのように米国の『対中カード』にならなかったようだ」と明かす。
「内モンゴルには国際的な支えが何もない。中国の顔色をうかがうモンゴルは『後ろ盾にならない後ろ盾』。トルコ系ムスリムのウイグル族が住む新疆ウイグルには、汎トルコ主義やイスラム原理主義の勢力がつながる。チベットにあるのは、ダライ・ラマ14世がインドに樹立した亡命政府。内モンゴルの問題は、欧米諸国から見てインパクトに欠けるのだろう」 (ブレンサイン氏)
とはいえ、ブレンサイン氏は内モンゴルが欧米諸国からあまり注目されず安堵したという。内モンゴルを、欧米諸国がこぞって中国に圧力をかける道具に利用すれば、中国政府が対内モンゴル政策をより厳しくする可能性があるからだ。