
私が刺されても警察は動かない
口を開けば冗談を言いあう明るい5人。だが「ケニアでのLGBTQ+の生活は甘くない」と5人全員は口をそろえる。
大きな問題が人間関係だ。ほとんどのLGBTQ+が自分のアイデンティティーを家族に言えないという。5人の中で家族にカミングアウトしていたのはモーガンだけだった。
カミングアウトはしなくても、LGBTQ+は話し方や仕草で気づかれる。そうなると、友人たちは距離を置く。悪口や罵声、ときには暴行を受けることもある。ロミオは以前、クラブ帰りに意味もなく平手打ちされたという。
モーガンの告白はもっと衝撃的だ。モーガンが、当時のパートナーの女性と、男性のいとこと3人でクラブに遊びに行ったときのこと。ある男がモーガンのパートナーにちょっかいを出してきた。自分のパートナーにしつこく絡んでくる男をモーガンは押しのけた。これに怒った男はボトルの瓶を割り、ガラスの尖った部分でモーガンの胸とお尻を突き刺したのだ。
悲劇はこれで終わらない。モーガンのいとこがその男を捕まえ、警察に連絡した。しかし駆け付けた警察は被害者がレズビアンだとみるや男の逮捕をやめてしまった。
男が捕まらなければ、慰謝料も医療費も請求できない。そうなると病院にもかかれない。モーガンはなくなく警察に3000ケニアシリング(約3000円)を渡し、男はようやく逮捕された。
「私が刺されても警察は犯人を捕まえてくれない。私たちに人権はない」。モーガンは胸の傷跡を見せながらこうつぶやく。
集団リンチで殺される
「だけど私たちが住んでいるナイロビのダウンタウンや西部はまだまし。本当に危険なのは田舎やスラム。性的マイノリティに理解のない人たちが私たちにモブジャスティス(暴徒の正義)をする」(ジョニー・ウォーカー)
モブジャスティスとは、コミュニティーや集団が独断で罪を裁き、制裁を加えること。具体的には集団で犯人を暴行する。ひどいときは死に至らしめるという。
保守的な考えが大半を占める田舎やスラムでは、同性愛者やトランスジェンダーは御法度。LGBTQ+はモブジャスティスの標的となりやすい。
ロミオによると、友人のトランスジェンダーが1週間前に死体で発見された。脚の骨が折れ、暴行された形跡があった。だが、被害者が性的マイノリティーだったため警察もしっかり捜査をしない。何があったのか、どうして死んだのか、今もわからないという。
「法に守られていない私たちは生き残ることで精一杯。常に周りを見渡し、自分を隠しながら生きている」とケファはLGBTQ+の苦しい現実を語る。